東京外国語大学言語モジュール

4.3.2. 両唇摩擦音f [ɸ]と歯茎弾き音r

 ここで取り上げる歯茎弾き音と両唇摩擦音は最初に書いたとおり、外来語にしか現れません。またここでは決まった音であるかのように音声学的なラベルを貼りましたが、実際の音は実に様々な現れをします。

 

1. 歯茎弾き音 alveolar tap の例

 歯茎弾き音r- [ɾ~ɽ]は日本語の弾き音のように現れる場合もあれば、英語の反舌接近音[ɻ]のような音になることもあります(英語をよく知っている人はこの音が多い)。もともとビルマ語にはこの音があったのですが、19世紀終わり頃にy- [j]の音と合流してしまいました(旧首都ヤンゴンYangonは以前、英語でRangoonと綴られていたのはその名残り)。そのため綴り上はr<ရ>でも実際にはy<ယ>で発音するのですが、外来語のrはr<ရ>を使って転写され、古い借用語であっても弾き音や歯茎接近音で発音されることもあります。また近年受容した外来語はr<ရ>で綴り、かつ弾き音または歯茎接近音で発音しますが、英語などにあまり触れる機会のない人はyで発音することもあります。また若干古い借用語の場合、l(エル)で発音される場合さえあります。非ビルマ語話者としては英語のr(アール)の音で発音しておけば間違いないでしょう。なおこのrの発音はラカイン方言(ラカイン語)には残っています。

တိရစ္ဆာန် [tăreiʔsʰàɴ~tăleiʔsʰàɴ ]動物 < Pali. tiracchāna
ရေဒီယို [rèdìyò~lèdìyò~yèdìyò ]ラジオ < Eng. radio

2. 両唇摩擦音 bilabial fricative

 両唇摩擦音は近代の外来語のうちf(エフ)の音を表す為に使われます。実際には両唇摩擦音[ɸ]であることが多いですが、英語をよく知っている人などは唇歯摩擦音[f]となる場合もあります。文字はpʰ<ဖ>を使って転写されます。そのため、あまり英語に馴染みのない人はpʰで発音することもあります。

ဖုန်း [fóuɴ~pʰóuɴ ]電話 < Eng. phone
ဖိုင် [fàiɴ ]ファイル < Eng. file ※これは[pʰàiɴ]となることはない。