東京外国語大学言語モジュール

4.2.1. 鼻音(有声音と無声化音)

 鼻音とは日本語で言うところのナ行、マ行、ニャ・ニ・ニュ・ニェ・ニョの音、そしていわゆる鼻濁音にあたります。より正確に言うと、阻害音に含まれる子音は口腔内で音が発生しますが、鼻音は鼻腔内における響き(共鳴)がその音の本質です。響きは声帯振動によって発生するので、鼻音は原理的に有声音ということになります。

 

 ビルマ語の無声化鼻音は世界的に見てもかなり珍しい音です(チベット・ビルマ系言語にはたくさん見られます)。意味の区別に関わるので、きちんと発音をマスターしなければなりません。

 

 無声化鼻音の具体的な発音の仕方を説明します。一番わかりやすいようにm-とhm-を例に取り上げます。m-だけを持続的に発音するとき、唇が閉じられ、鼻で響きが発生します。このとき自然に声帯が振動します。これが有声のm-です。これに対して無声のhm-は、m-の出だしに一瞬だけ声帯が震えない瞬間があり、その時に若干鼻から息が漏れます。(阻害音にあった有気=出気は子音の発音の直後に息漏れが続いて生じますが、こちらは子音の発音の直前に息漏れが生じるため、前出気 pre-aspirationといわれることもあります。)声帯が震えていないので、当然無声になります。ただし無声区間はほんの一瞬で、その後は普通にm-の音になります。
この原理はhn-、hɲ-、hŋ-でも同じです。

 

 以下、具体例を見ていきましょう。

 

1. 両唇鼻音 bilabial nasal と無声化両唇鼻音 devoiced bilabial nasal

 有声音は日本語の「マ行」の音です。同じ両唇音のpʰ-、p-、b-と同じ調音位置になります。

မာ [mà ]固い;健康だ
မှာ [hmà ]頼む、注文する

2. 歯茎鼻音 alveolar nasal と無声化歯茎鼻音 devoiced alveolar nasal

 有声音は日本語の「ナ行」の音です(ただしni-は日本語の「ニ」ではなく、英語のneedと同じ調音位置です)。同じ歯茎音のtʰ-、t-、d-と同じ調音位置になります。

နာ [nà ]痛い
နှာ [hnà ]

3. 硬口蓋鼻音 palatal nasal と無声化硬口蓋鼻音 deoviced palatal nasal

 有声の硬口蓋鼻音は日本語のニャ・ニ・ニュ・ニェ・ニョの音です。同じ硬口蓋音のcʰ-、c-、j-と同じ調音位置になります。

ညာ [ɲà ]騙す;右
ညှာ [hɲà ]労う

4. 軟口蓋鼻音 velar nasal と無声化軟口蓋鼻音 devoiced velar nasal

 いわゆる日本語の鼻濁音です。意識して発音する音ではない上、最近の日本語母語話者は3割ほどしか鼻濁音を持っていないとも言われ、そもそも日本語では語頭には現れませんので、人によっては相当に習得が困難です。原理的には同じ軟口蓋音のkʰ-、k-、ɡ-と同じ調音位置で、軟口蓋と奥舌がくっついたままで、他の鼻音と同じく鼻腔を響かせます。

ငါး [ŋá ]魚;5
ငှား [hŋá ]貸借する