ワヒー語のふるさと map1 map2 map3 map4

記載内容の引用について

イラン語派東イラン語・パミール諸語に属する言語。

パミールとヒンドゥークシュに挟まれた地域,いわゆるワハン回廊を中心に分布する。その話者は,アフガニスタン,パキスタン北部・ゴジャール地方(上部フンザ地域),中国新彊ウイグル自治区,タジキスタンの4カ国にわたる。無文字言語である。

1983年のロシア人研究者による報告に基づいたPayne(1998)の記述によれば,ワヒー語話者数は25,000-30,000人で,うち旧ソ連側10,000人,パキスタン(上部フンザ)10,000人,アフガニスタン10,000人と推定されている。中国側に居住するワヒー語話者数に関する言及はない。

北部パキスタンでは,ワヒー語は,ゴジャール地方から,アフガニスタン・中国国境地帯(ChapursanおよびShimshal地方)にかけて使用されており,その中心地域は,経済・交通の拠点であるカラコルムハイウエイ沿いに位置する,Gulmit,Hussaini(現地名Sisuni),Pasuの3村落である。現地のイスマーイーリー評議会による近年の人口統計では,この3村落に,隣接言語である孤立言語ブルシャスキー語との併用村落Shishkatを合わせた人口は,6256人と推計されている。

ワヒー語は,かつての支配者階級の出身言語であるブルシャスキー語,また,西ではインド・アーリア系のコワール語と境界を接しており,フンザ地域村落の一部(Shishkat, Nazimabad, Khaybar)およびChapursan地域では,ワヒー語およびブルシャスキー語話者が混住する村落が認められる。ゴジャール・ワヒー語話者の大部分は,パキスタンの公用語ウルドゥー語とのバイリンガルである。

また,フンザ~ゴジャール~チャプルサン地方は,シーア派の一派,イスマーイール派の分布地域であり,特にワヒー語話者に関しては,全員がその信者である。ゴジャール地域では,イスマーイーリー派関連の農村援助が行われているほか,村落内での共同作業も宗教施設を中心に行われることが多い。また,イスマーイーリー派の発祥地の言語であったペルシア語は,現在もなお文化教養語としての地位を保っており,高齢者を中心に,ペルシア語を解する話者も多い。

本ページで公開する基礎語彙は,文部科学省科学研究費(No. 16720084)による言語調査の一環として,GulmitおよびSisuniで収録されたものである。録音は主としてSisuniで行われた。インフォーマントであり録音者のMurad Shah氏は,1970年生まれのSisuni出身者である。


<参考文献>
Payne, John, 'Pamir Languages' R., in Schmitt (ed.) Compendium Linguarum Iranicarum ,1983. 417-44.