東京外国語大学言語モジュール

3.2. 定冠詞/l-/と音節
 アラビア語には,英語の the のような定冠詞の/l-/があります。この定冠詞/l-/は,前にCVの音節がある場合,それと組み合わさってCVCの音節を構成します。
 
      この   (特定の)コーヒー  
   /haː.ði.hi         l-.qah.wa/  「このコーヒー」
   (CVː.VC.CV      C.CVC.CV)
هذه القهوة /haːðihi l-qahwa/ このコーヒー
 /l-qahwa/「(特定の)コーヒー」は,/qahwa/「(不特定の)コーヒー」に定冠詞/l-/のついた形です。それぞれの音節構造を比較すると次のようになります。
 
   /qa.hwa/   (CVC.CV)  「(不特定の)コーヒー」
   /l-qah.wa/ (CCVC.CV)  「(特定の)コーヒー」 
 
 /qahwa/(CVC.CV)に定冠詞/l-/がついた/l-qahwa/(CCVC.CV)は,子音連続ではじまる音節(CCVC)を持っているため,単独で発音することができません。このような場合は,定冠詞/l-/の前に母音/a/が挿入されます。
 
   /al-.qah.wa/ (VC.CVC.CV)
 
 しかしながら,/al-qahwa/も現代標準アラビア語にはない音節(VC)を持っています。そのため,さらに子音/ʔ/が補われ,定冠詞は/ʔal-/として発音されます。
 
   /ʔal-.qa.hwa/ (CVC.CVC.CV)
قهوة /qahwa/ (不特定の)コーヒー
القهوة /ʔal-qahwa/ (特定の)コーヒー
 
 
 このように,アラビア語の定冠詞/l-/は,直前の音節と結びついて発音される場合は/l-/のままで発音され,直前に音節がない場合は/ʔal-/と発音されるのです。
هذه القهوة لذيذة /haːðihi l-qahwa laðiːða/ このコーヒーはおいしい。
القهوة لذيذة /ʔal-qahwa laðiːða/ コーヒーはおいしい。