東京外国語大学言語モジュール

Step2 : 重文(1) 並列

並列の重文
 
  重文の並列節と主節とのさまざまなつながり方のうち、もっともプレーンなものを並列の重文と呼びます。
 
  並列の関係で主節につながる並列節は、述語を動詞の副動詞形の一部にする方法と、接続詞による接続というふたつの方法によって表されます。
副動詞形によるもの
 
  副動詞形のうち、並列の重文を作るものは次の3種類です。→【発音と正書法上の注意】
 
      【語幹-ж
       【語幹-ч
 
      【語幹-н
 
      【語幹-аад
 
  語尾 は、語幹末尾の子音字によって という形に交代します。その書き分け方法は、終止形語尾 -жээ-чээ の短縮形 と同じですから、そちらを参照してください。
 
 
  3つの副動詞形は次のように使い分けられます。
 
   は、次のようなつながりを表します。
  この語尾をとった並列節は、主節の述語と並行して行なわれる動作または同時に行なわれる動作を表します。つまり、並列節に独自のテンスはなく、つねに主節のテンスに支配されます。これらの意味で接続するのは動作動詞に限られ、状態動詞の場合は別の構文などで表さなければなりません。
  主語は異なる場合と同じ場合とがありますが、異なる場合には、並列節のあとにコンマを書きます。
 
      Ээж хоол хийж, аав өрөөгөө янзаллаа.  お母さんは料理を作り、お父さんは部屋を片付けました。
      Бид нар амралтын өдрөө ууж өнгөрөөсөн.  私たちは休日を飲んで過ごしました。
 
  主語が主節と同じ場合はさらに、心理的に切れ目なく行なわれる一連の動作のうちの前半の動作を表すこともできます。この場合、主節が後半の動作ということになります。
 
      Би өнөө өглөө эрт босож цай уулаа.  私は今朝早く起きて朝食をとりました。
      (モンゴルでは固形物をとるかどうかに関係なく朝食のことをすべて цай 『お茶』と呼びます)
 
  この語尾が補助動詞としての状態動詞 бай- とともに用いられた形が進行・継続アスペクトの形式を作ることは以前に学習したとおりです。この語尾には、補助動詞とともに複合形式を作る用法が数多くあります。
 
   は、基本的に と同じ意味を表しますが、使い方としては次の点に注意が必要です。
  に比べてやや硬いニュアンスがありますので、並行してまたは同時に行なわれる動作を表す用法では、主語が異なる場合は を使うのが一般的です。
 
      Ээж хоол хийн, аав өрөөгөө янзаллаа.  (?)( が自然)
 
  並列節がふたつ以上ある場合、同じ語尾の連続を避けるというスタイル上の理由によって、 とともに用いられます。
 
      Бид нар амралтын өдрөө ууж идэн өнгөрөөсөн.  私たちは休日を飲んで食べて(=飲み食いして)過ごしました。
 
  この語尾は、語彙的な意味を保持したそのほかの動詞とともに用いられ、複合動詞を作る用法が発達しています。
 
  -аад は、以上のふたつとは異なり、並列節の述語が表す動作や状態が主節の述語より前にいったん完了したことを表します。つまり、この場合は、並列節と主節のテンスが実質的には異なるということになります。
  この語尾で作る重文の主語は同じものに限られます。したがって、主語とテンスの両方が異なるふたつの節の並列は、次の項で見る接続詞による方法で表します。
 
      Манай ах Москвад хоёр хоноод ирлээ.  うちの兄はモスクワで2泊してから来ました。
      Би их сургуулиа төгсөөд энэ ажилд орлоо.  私は大学を卒業してからこの仕事につきました。
 
  前のふたつの副動詞形とは違い、並列節の述語が状態動詞の場合もこの語尾で重文を作ることができますが、進行・継続アスペクトの形をとるのがふつうです。
 
      Аав Парист нэлээн байж байгаад сая ирлээ.  父はパリに長いこといてからつい先ごろ戻りました。
      Аав Парист нэлээн байгаад сая ирлээ.  (?)
 
  以前に学習したように、副動詞形による並列節の述語は絶対的な時間的意味を表すことができませんので、並列節と主節のテンスが実質的に異なるとはいっても、具体的には基準となる主節のテンスとの関係しか表すことができません。
 
      Манай ах Москвад хоёр хоноод ирлээ.  うちのお兄さんはモスクワで2泊してから来ました。(主節=過去  並列節=過去の前)
      Манай ах Москвад хоёр хоноод ирнэ.  うちのお兄さんはモスクワで2泊してから来ます。(主節=未来  並列節=未来の前)
接続詞によるもの
 
  モンゴル語では、接続詞 бөгөөд を使った次の構文によって並列の重文を作ることができます。ただし、この形は文芸作品の叙述や各種文書など硬いスタイルで使われます。
 
      【並列節  述語形動詞形  бөгөөд  【主節】
 
  接続詞のあとにコンマを付けることもあります。
 
 
  この形式による並列節は、副動詞形による並列節のような述語動詞のつながりもなく、ただ単に節が表す複数の事態を並べるだけです。この場合、日本語の訳は「~が…」や「~て…」など、文脈によって工夫する必要があります。
 
  この構文の場合は、副動詞形による場合とは違い、並列節の述語が独自のテンスを表すことができますが、並列節の述語は必ず形動詞形になるという形の上での制限がありますので、終止形ではなく、自分の表現したいテンスにもっとも近い形動詞形を選択しなければなりません。ただし、テンスを表す終止形の否定の形は元々形動詞形を流用したものですからそのまま使うことができます。
 
      Мөндөр удахгүй нутагтаа харих бөгөөд, ирэх жилийн хавар дахиж ирэх болно.  ムンドゥルは間もなく帰郷しますが、来年の春に再び来ます。
      Манай эгч одоо Солонгост байгаа бөгөөд, удахгүй Монголд ирнэ.  うちの姉は今韓国にいて、もうすぐモンゴルに来ます。
コピュラ文の場合
 
  以前に述べたように、モンゴル語では、コピュラ文のうちの措定文、すなわち「Aの属性はBである」という文のBが複数の場合は、同位成分の並列ではなく重文になり、前の項で見た接続詞 бөгөөд を使った表現で表します。
 
      Мария Москвад их алдартай илбэчин бөгөөд зурхайч.  マリヤはモスクワでとても有名なマジシャンで占い師です。
 
  これに対して、指定文、すなわち「AイコールB」のBが複数の場合、重文ではなく単なるBの並列になることは以前に学習したとおりです。「~で…」・「~と…」という日本語の違いにも注目してください。
 
      Мариягийн мэргэжил илбэчин болон зурхайч.  マリヤの職業はマジシャンと占い師です。
 
  前にも述べたように、モンゴル語で名詞を修飾する形容詞は、修飾語成分ではなく措定文が連体節になっているものと見なされます。
 
      Энэ орон баян.  この国は豊かです。
      → баян орон  豊かな国
      Энэ орон малаар баян.  この国は家畜が豊かです(この例に含まれる形容詞自身の補語『家畜が』の形についてはあとのステップで学習します)。
      → малаар баян орон  家畜が豊かな国
      Энэ орон баян байсан.  この国は豊かでした。
      → баян байсан орон  豊かだった国
 
  したがって、名詞を修飾する形容詞が複数ある場合は、以前に学習した同位成分の並列ではなく、あくまでもコピュラ文(措定文)の重文が連体節になったものですから、接続詞 бөгөөд によって形容詞を結び付けなければなりません。
 
      Энэ өрөө цэвэрхэн бөгөөд тохилог.  この部屋は清潔で快適です。
      → цэвэрхэн бөгөөд тохилог өрөө  清潔で快適な部屋
      цэвэрхэн болон тохилог өрөө  (×)
 
  以上のほか、措定文・指定文にかかわらず、テンスや主語が異なるふたつのコピュラ文をつなぐ場合も、接続詞 бөгөөд による構文を用います。
 
      Дондовдорж гуай тухайн үед АИХ-ын дипутат байсан бөгөөд одоо хүү нь УИХ-ын гишүүн боллоо.  ドンドブドルジ氏は当時人民大会議の代議員で、現在はその息子が国家大会議議員になりました。
      (АИХ = Ардын Их Хурал, УИХ = Улсын Их Хурал)
      Аавын нутаг Хөвсгөл бөгөөд ээжийнх Архангай.  父の故郷はフブスグルで母の(故郷)はアルハンガイです。
 
  並列節がコピュラ文で主節が動詞文という組み合わせもあります。
 
      Би цайнд дуртай бөгөөд байнга уудаг.  私はお茶が好きでいつも飲んでいます。
否定の並列
 
  あくまでも並列の関係の一種として、「~せずに」・「~ないで」というように、並列節の述語が否定の意味を持っている場合があります。これは逆接とは異なります。
 
  否定の並列は、次のような形式で表されます。これらは、現代語では固定化した接続形式になっているものです。→【発音と正書法上の注意】
 
      【語幹-хгүйгээр
 
      【語幹-лгүй
 
  語尾 -хгүйгээр の語幹と接する部分は否定形と同じですから、正書法上の注意は関連するステップを参照してください。
 
  これらの場合も、並列節に独自のテンスはなく、つねに主節のテンスに支配されます。
 
      Эрдэнэчулуун ирэхгүйгээр Батболд ирлээ.  エルデネチョローンは来ないでバトボルドが来ました。
      Пагмаа гадуур ажил хийлгүй гэртээ байдаг.  パグマーは外で仕事をしないで家にいます。
 
  コピュラ文の否定の場合は、この形式ではなく、コピュラ文の否定形式を作ったうえで、前の項で見た接続詞 бөгөөд を使った表現を使います。
 
      Амгалан оюутан биш бөгөөд жинхэнэ багш.  アムガランは学生ではなく専任の講師です。
【発音と正書法上の注意】
 
● 副動詞形語尾  及び否定の並列を作る接続形式 -лгүй が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。以下の例では、 で代表させて示します。
 
  子音字で終わる場合は、語尾の直前に必ず短母音字を挟みます。
 
     語幹 унш- 「読む」+ уншин
     語幹 ид- 「食べる」+ идэн
 
  ь で終わる場合は、語幹末の ь и に変えます。
 
     語幹 урь- 「招く」+ урин
     語幹 зохь- 「合う」+ зохин
 
● 副動詞形語尾 -аад が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
 
  短母音字で終わる語幹の場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
 
     語幹 сана- 「思う」: а脱落-аад санаад
     語幹 дага- 「従う」 : а脱落-аад дагаад
 
  яё で終わっている語幹の場合は、それらを残したうえで、-аад の形を -ад とします
 
     語幹 хая- 「捨てる」: +-ад хаяад
     語幹 оё- 「縫う」 : -од оёод
 
  長母音または二重母音で終わる語幹の場合は、子音 g がつなぎとして現れますので、綴りの上でもこれを表記します。
 
     語幹 асуу- 「たずねる」: г挿入-аад асуугаад
     語幹 ороо- 「包む」 : г挿入-оод ороогоод
 
  ь で終わる語幹の場合は、-аад を接続したときにできる綴り ьаад の ьа の部分を母音字 и に変えて иад にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иа という二重母音になるわけではありません。
 
     語幹 тавь- 「置く」 -аагүй тавьаад тавиад
     語幹 соль- 「換える」-оогүй сольоод солиод
 
  なお、否定形 -аад は母音で始まる語尾ですから、子音字で終わる語幹にこれを接続するときには、正書法一般のいわゆる脱落母音の規則とその例外にも十分注意してください。