東京外国語大学言語モジュール

モンゴル語文法モジュールへようこそ!

 このモジュールの学習対象である現代のモンゴル語は、モンゴル人民共和国の独立を経て社会的に確立しましたが、日本と同国には長い間外交関係がなく、日本人が自由に渡航できる状態ではありませんでした。両国はその後、1972年に外交関係を開設しますが、当時のモンゴル人民共和国は厳格な社会主義国家であり、人の往来は依然として、大使館員や年間数人の国費留学生というきわめて狭い範囲にほぼ限られていました。
 両国間の人的交流が実質的に始まったのは、1992年にモンゴル人民共和国が新生「モンゴル国」となってからのことです。数千人のモンゴル人が日本で暮らし、大相撲の横綱がモンゴル語話者である現在、わずかな帰国者や書物を通じて間接的にしかモンゴル語と接することができなかった長い時代を考えると隔世の感がありますが、生きた言語としての現代モンゴル語を一般の日本人が自由に見聞きできるようになってから四半世紀程度しかたっていないこともあり、現代モンゴル語の記述研究や教材開発は今なお発展途上にあります。
  
 このような状況にあって、本モジュールは次のような文法を目指して編纂されました。
  
本格的な文法
 モンゴルの民主化後、モンゴル語の新しい教材は、会話本を中心にいくつか出版されるようになりましたが、入門書以上のレベルの細かい文法知識や実際の言語事実といった情報は今なお、わずかな研究者や現地での長期滞在者のみが経験的に知る知識にとどまっています。そこで、このモジュールは、そのような知識を誰もがハンディなく習得できるよう、可能な限り詳しい説明を盛り込むようにしました。
 各ステップの解説は、原則としてすべての説明を例文で補強しているために、一見長く見えますが、書いてある順序で初めから読み進めることによって、ブロークンでない正しいモンゴル語を使うために必要な知識が習得できるようになっています。
  
新しい文法
 本モジュールのほとんどの項目は、例文の収集と母語話者への調査による言語事実の確定、それらの分析・記述という一からの作業に基づいて書き下ろしたものです。この結果、本モジュール作成の過程で初めて明らかになった事項や整理された文法規則も多く、学習教材であると同時に、記述文法としてのたたき台とすることも企図しました。
 また、各項目の解説には、日本語との対照という視点を意識的に織り込んであります。日本語とモンゴル語がタイプとしてよく似た言語であることは確かですが、実際には微妙な違いもかなり見られますので、日本語話者がモンゴル語を学習するときには、日本語からの類推で誤りやすい点にとくに注意することが必要です。
  
すぐに使える文法
 他方、詳しく本格的な文法といっても、実際に使えない知識では意味がありません。そこで、解説の部分では、使う頻度やスタイルについての情報を重視しました。学習は長丁場となりますので、それに基づいて適宜メリハリを付けることが肝心です。
 また、モンゴル語は、日本語と同じように、主として文末に置かれ、話し手の気持ちや判断を表すための形式が広く発達していますが、これは、生き生きとした発話のためには不可欠な要素です。このモジュールは、そのような形式を項目として数多く取り扱うよう設計されています。
 なお、本教材がモジュール式であることから、表記については、母音調和の反映や短母音字の脱落といったキリル文字の正書法の知識を前提としていますが、複雑かつ難解きわまることで有名な同正書法の現実にかんがみ、ある程度の規則と、綴りと音との関係のうちとくに問題となるところを文法のほかに解説しました。
  
    
 解説の中で使った記号などの意味は次のとおりです。
  
 (×)…使えない
 (?)…不自然または話者によって判断が分かれる
 「・・・(日本語)・・・」が(×)や(?)のあとにある場合は、文法的に誤りとは言えないが、「・・・(文)・・・」という意味では(×)/(?)であることを表す
  
  
 本モジュールの学習項目の設定に際しては多くの既存の教材を参照しましたが、特に、長年に渡って東京外国語大学におけるモンゴル語教育の中心として使われている以下の教科書から多くの示唆を得ました。特に記して感謝申し上げます。
  
 モンゴル国立大学モンゴル語研究室(編)・岡田和行(編訳)、『モンゴル語教科書(外国人向け)(再版)』、東京外国語大学語学教育研究協議会、1996