文の中のある項を、ほかの項との関係で取り上げるための形式を取り立てと呼びます。たとえば、「私はウズベキスタンにも行きました」という文では、「ウズベキスタンに」という項が、「タジキスタンに」や「キルギスに」などといった別の項との関係で取り立てられているということになります。
モンゴル語の取り立ては、格をとった名詞類にあとに置かれる取り立て助詞やさまざまな形式によって表されます。
以下に主な取り立ての形式を示しますが、これらはいずれも前の語とは離して表記されます。→【発音と正書法上の注意】
助詞
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取り立ての意味
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日本語の類似形式
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хүртэл
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意外性
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「~さえ」・「~まで」」
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бас
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並立
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「~も」
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ч бас
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ч гэсэн
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並立
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「~も」
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бол
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説明・定義に先立つ主題
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「~は(…である)」
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際立たせ
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「~こそ」・「~ぞ」
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гэж
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引用
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「~とは」
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гэдэг нь
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聞き手が知らないことの説明
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「~というのは」
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л
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限定
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「~のみ」・「~だけ」
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少ないという評価
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「~しか(…ない)」
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ч
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並立
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「~も」
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Түүний тухай мэдээлэл надад хүртэл ирсэн. そのことについての情報は私にさえ来ました。(意外性)
Алимтай хамт бананыг ч бас авсан. りんごと一緒にバナナも買いました。(並立)
Аугаа их Ленин бол бүх дэлхийн пролетари нарын багш мөн. 偉大なるレーニンは全世界のプロレタリアートの師である。(旧ソ連時代のスローガン)(説明・定義に先立つ主題)
Энэ бол миний төрсөн нутаг, Монголын сайхан орон. これぞわが生まれ故郷、モンゴルの美しい大地(詩人ナツァグドルジの国民的詩『わが故郷』のリフレイン)(際立たせ)
Аюулгүйн Зөвлөл гэж ямар байгууллага вэ? 安全保障理事会とはどんな機関ですか?(引用)
Шизофрени гэдэг нь сэтгэцийн өвчний нэг хэлбэр. 統合失調症というのは精神疾患のひとつの形態です。(聞き手が知らないことの説明)
Өнөөдрийн хичээлд Хатнаа л ирсэнгүй. 今日の授業にはハトナーだけが来ませんでした。(限定)
Надад 20.000 төгрөг л байна. 私には20,000トゥグルグしかありません。(少ないという評価)
Тэгвэл би ч явахгүй. それならば私も行きません。(並立)
取り立ては、モンゴル語の中でも研究が遅れている分野のひとつで、ここに挙げた意味も実際の用法のうちの代表的なものということになります。初級~中級ではひとまずこれで十分ですが、とくに л と ч には、上記の基本用法以外に、文脈や情報構造にかかわるきわめて広範な用法があります。