ヴォイスとその形式
たとえば、「学生を殴る」という文の補語である「学生を」は、「学生」の立場を別の角度から表し、述語の形を変えると「学生が殴られる」・「学生に殴らせる」というように格が規則的に変化します。このような現象を引き起こす文法形式を一般にヴォイスと呼びます。
モンゴル語には、いくつかのヴォイス形式が存在します。
モンゴル語のヴォイス形式はすべて、動詞の語幹に直接接続する補助語幹によって表されます。
このステップでは、使役ヴォイスの形と機能について学習します。
モンゴル語の使役ヴォイスの基本的な特徴
使役は、ある事態を引き起こそうとしているもの(使役の主体)が、実際に引き起こすもの(動作の主体)に対して、その事態の実現を働きかけたり許容したりする表現です。
ところで、「休む」という自動詞から作られる「体を休ませる」という使役文は、もともと、「体を休める」という他動詞文と共通する面を持っています。これによって、日本語では、ある一定の条件に基づく「休ませる」と「休める」の使い分けが行なわれるわけです。
これに対して、モンゴル語の場合は、自動詞から作られる使役と他動詞との間にはっきりとした境界線がありません。つまり、ある自動詞から作られる「使役の形」が「その自動詞の使役」を表す場合と、「その自動詞に対応する他動詞」を作る場合とを明確に分けることができないのです。
他方、他動詞については、多くの場合は純粋に使役を表す形が作られますが、ここでも、使役の意味が薄く、事実上、さらに別の他動詞を形成することがあります。ただしこの場合は、構文上の違いによって、両者をある程度分けて考えることができます。
以上をまとめると次のようになります。すなわち、モンゴル語の使役ヴォイスには、①~④という4つの機能があるということになります。
① 自動詞を他動詞に変える機能
② 自動詞の使役を表す機能
③ 他動詞の使役を表す機能
④ 他動詞をさらに別の他動詞に変える機能
使役ヴォイスの形式
使役ヴォイスは次の補助語幹によって表されます。ここでは、これらの補助語幹が接続した形をまとめて使役形と呼んでおくことにします。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-уул-】
【語幹-лга-】
【語幹-га-】
【語幹-аа-】
さきに見たように、モンゴル語の使役ヴォイスの形には4つの機能がありますが、ここで、4種類の形の使い分けとの関係が問題となります。
実際の使い方を見てみると、次のように同じ動詞に複数の形が接続する場合がありますので、一見すると、何らかの使い分けの法則があるかのように見えます。
хүр- → хүрүүл- ~ хүргэ-
өнгөр- → өнгөрүүл- ~ өнгөрөө-
давар- → давруул- ~ давраа-
сандар- → сандруул- ~ сандарга- ~ сандраа-
現状を観察するかぎり、今のところ、次の2点を一応の目安として挙げることができます。
まず、-га- と -аа- は原則として自動詞に接続し、その自動詞の使役ではなく、対応する他動詞としての用法が強い形を作ることになります。
хүр- 届く(自動詞)
→ хүрүүл- 届かせる(自動詞の使役的) ⇔ хүргэ- 届ける(他動詞的)
また、これらは、動詞によって付くものと付かないものが決まっており、さらには、付く場合であっても、-га- と -аа- のどちらが付くかは基本的に決まっています。
хүр- → хүргэ- (×)хүрээ-
өнгөр- → өнгөрөө- (×/?)өнгөргө-
ただし、動詞の中には、-га- と -аа- の両方が付くものもあります。
давар- → даварга- ~ давраа-
сандар- → сандарга- ~ сандраа-
しかし、これらの形であるにもかかわらず必ずしも他動詞的とは言えない場合があるほか、そのほかの形であっても他動詞的に使われるものがありますので、「他動詞形成イコール -га-/-аа-」と直ちに断定するわけにもいきません。それに、モンゴル語ではそもそも両者の区別があいまいであることは先に述べたとおりです。
бос- 立つ(自動詞)
→ босго- 立たせる(自動詞の使役的)~立てる(他動詞的)
ор- 入る(自動詞)
→ оруул- 入れる(他動詞的)~入らせる(自動詞の使役的)
яв- 行く(自動詞)
→ явуул- 送る(他動詞的)~行かせる(自動詞の使役的)
буу- 降りる(自動詞)
→ буулга- 降ろす(他動詞)~降りさせる(自動詞の使役)
したがって、「同じ自動詞に複数の形が接続する場合には、-га- と -аа- の付いたほうが他動詞的な傾向が強い」という程度にとどめる必要があります。
次に、-лга- はもっぱら長母音・二重母音で終わる動詞語幹にだけ接続します。
ай- 怖がる(自動詞)
→ айлга- 怖がらせる(自動詞の使役)~脅かす(他動詞)
хий- 行なう(他動詞)
→ хийлгэ- 行なわせる(他動詞の使役)
しかし、次のように、長母音・二重母音で終わる動詞語幹にほかの形が接続する場合もありますので、動詞の側からはこれも必ずしも当てはまるわけではありません。
бай- ある・いる(自動詞)
→ байлга- いさせる(自動詞の使役) ⇔ байгуул- 作る(他動詞)
結局のところ、個々の動詞ごとにどのような形を作るかを把握したうえで、自動詞であれば、その形が使役的な意味で使われているか、他動詞的な意味で使われているかという情報とともに個別に覚えるのが現実的ということになります。
以下、自動詞と他動詞ごとに構文などを見ていくことにします。
自動詞の場合
上の補助語幹が自動詞に付いた形は、その自動詞の使役(上記の②)または対応する他動詞(上記の①)のいずれかのニュアンスを表します。さきにも述べたように、補助語幹が -га- または -аа- である場合は他動詞的なことが多いのは事実ですが、区別の方法として絶対的なものではありません。
自動詞から作られる使役ヴォイスの構文は次のようになります。
【使役の主体:主格】 【動作の主体:対格/不定格】 【使役形】
以下、使役的なものから他動詞的なものへという順序で示しますが、構文や動詞の形から両者を明確に区別する方法はなく、その違いは連続的なものとなります。
なお、本来は不定格をとる動作の主体も、表示の便宜上すべて対格で示します。
алиалагч үзэгчдийг инээлгэ- ピエロが観客を笑わせる
багш сурагчдыг гүйлгэ- 先生が生徒を走らせる
малчин үхрийг үхүүл- 牧民が牛を死なせる
эгч ээжийг уйлуул- 姉が母を泣かせる
архи Доржийг согтууруул- 酒がドルジを酔わせる
хэрэг хүмүүсийг гайхуул- 事件が人々を驚かせる
захирал Отгоог өрөөндөө оруул- 校長がオトゴーを部屋に入れる
мэдээ намайг баярлуул- ニュースが私を喜ばせる
цагдаа хүмүүсийг холдуул- 警官が人々を遠ざける
эм өвчтөнийг унтуул- 薬が患者を眠らせる
ээж намайг сэрээ- 母が私を起こす
Үржин охиныг эмч болго- ウルジンが娘を医者にする
Цэцэгмаа хувцсыг хатаа- ツェツェグマーが服を干す
動詞の中には、同じ形で明らかに別のニュアンスを持つものがあります。このときは、動作の主体が無生物など意志を持たないものや、被害者や赤ちゃんなど自分の意志で行動できない人間である場合に他動詞的なニュアンスが強くなります。
мэдээ ард түмнийг айлга- ニュースが国民を怖がらせる(使役的)
дээрэмчин хохирогчийг айлга- 強盗が被害者を脅す(他動詞的)
захирал ажилтнуудыг ажиллуул- 社長が従業員を働かせる(使役的)
инженер суурь машиныг ажиллуул- 技師が機械を動かす(他動詞的)
Чинбат Мугийг явуул- チンバトがモギーを行かせる(使役的)
Оюунаа захидлыг явуул- オヨーナーが手紙を送る(他動詞的)
багш сурагчдыг суулга- 教師が生徒たちを座らせる(使役的)
ээж нялх хүүхдийг суулга- 母親が赤ちゃんを座った姿勢にする(他動詞的)
дарга намайг босго- ボスが私を立たせる(使役的)
нийгэмлэг хөшөөг босго- 協会が記念碑を建てる(他動詞的)
4つの補助語幹のうちの複数の形をとりうる動詞は、多くの場合、形によってニュアンスが区別されます。このとき、-га- と -аа- によって作られた形に他動詞的なものが多いという一応の傾向があることは何度も述べているとおりですが、実際にはそれほど違いが見られない場合もあり、結局は個別に覚えるほかありません。
ээж хөшгийг шаланд хүрүүл- お母さんがカーテンを床に届かせる(使役的)
жолооч даргыг гэрт нь хүргэ- 運転手がボスを家まで送り届ける(他動詞的)
тэр үг намайг сандруул- そのことばが私を慌てさせる(使役的~他動詞的)
тэр үг намайг сандарга- 同
тэр үг намайг сандраа- 同
найзууд цагийг сайхан өнгөрүүл- 友人たちが時間を楽しく過ごす(他動詞的)
найзууд цагийг сайхан өнгөрөө- 同
багш сурагчдыг ангидаа байлга- 教師が生徒たちを教室にいさせる(使役的)
Засгийн газар шинэ агентлагийг байгуул- 政府が新しいエージェンシーを設立する(他動詞的)
次のような動詞の場合は、他動詞的にはならず、必ず自動詞の使役を表します。
まず、ある語基に自動詞を作る派生接辞 -р- が接続してできた自動詞で、同じように他動詞派生接辞 -л- によって作られた他動詞をペアとして持つ場合です。
хагар- 割れる(自動詞) ⇔ хагал- 割る(他動詞)
→ хагаруул- 割らせる(自動詞の使役)(『割る』=他動詞にはならない)
тасар- 切れる(自動詞) ⇔ тасал- 切る(他動詞)
→ тасруул- 切れさせる(自動詞の使役)(『切る』=他動詞にはならない)
次に、自動詞派生接辞 -р- が他動詞に接続してできた自動詞の場合です。
эвдэр- 壊れる(自動詞) ← эвд- 壊す(他動詞)
→ эвдрүүл- 壊れさせる(自動詞の使役)(『壊す』=他動詞にはならない)
асгар- こぼれる(自動詞) ⇔ асга- こぼす(他動詞)
→ асгаруул- こぼれさせる(自動詞の使役)(『こぼす』=他動詞にはならない)
他動詞の場合
上の補助語幹が他動詞に付いた形は、その他動詞の使役を表すか、別の他動詞を形成します。自動詞の場合と違い、両者は構文のうえで別の形をとることで区別されます。
まず、他動詞の使役を表す構文は次のようになります。自動詞から作られる場合との違いに注意してください。
【使役の主体:主格】 【動作の主体:造格】 【動作の対象:対格/不定格】 【使役形】
以下、本来は不定格をとる動作の主体も、表示の便宜上対格で示します。
ээж ламаар номыг уншуул- 母親が僧侶にお経を読ませる
багш Энхнасангаар зургийг зуруул- 教師がエンフナサンに絵を描かせる
Цэндсүрэн эгч надаар дээлийг оёул- ツェンドスレンさんが私にモンゴル服を縫わせる
前の項で見た方法によって自動詞から作られた他動詞的な形のうち、他動詞的な語彙的意味が定着したものは、ひとつの他動詞としてこの項の構文に繰り入れることができます。この場合、元の自動詞にふたつの補助語幹が接続している形に見えますので、混乱しないようにしてください。これらはあくまでも、いったん他動詞として成立したあとで、他動詞としてのその動詞にひとつの補助語幹を接続したものということになります。
ээж хүүхдээр ахыг босгуул- 母親が子どもに兄を起こさせる(他動詞としての босго-の使役)
эгч надаар хувцсыг хатаалга- 姉が私に服を干させる(他動詞としての хатаа-の使役)
захирал ажилтнаар ачааг явуулуул- 社長が社員に荷物を送らせる(他動詞としての явуул-の使役)
багш Насаагаар гэрлийг унтраалга- 教師がナサーに電気を消させる(他動詞としての унтраа-の使役)
дарга жолоочоор найзыг гэрт нь хүргүүл- 主人が運転手に友人を家に送り届けさせる(他動詞としての хүргэ-の使役)
モンゴル語では、「他動詞の使役を表している形」にさらに使役の補助語幹が接続する場合があります。これは、実際にその動作を行なう者がさらに別にいる場合などに使われます。この「さらに別の誰か」は、文の中には形として現れないことも少なくありません。
ээж хүүхдээр номыг уншуулуул- 母親が子どもに命じて(さらに別の誰かに)本を読まさせる
багш оюутнаар зургийг зуруулуул- 教師が学生に命じて(さらに別の誰かに)絵を描かさせる
эгч надаар дээлийг оёулуул- 姉が私に命じて(さらに別の誰かに)モンゴル服を縫わさせる
このような場合の「他動詞」が、自動詞の使役形によるものである場合は、補助語幹が実に3連続しているように見えることになります。
дарга надаар бичиг баримтыг шатаалгуул- ボスが私に命じて(さらに別の誰かに)書類を焼かさせる
この例の動詞の由来をたどっていくと次のようになります。
шат- 焼ける(自動詞)
→ шатаа- 焼く(他動詞←自動詞『焼ける』の使役『焼けさせる』)
→ шатаалга- 焼かせる(他動詞の使役)
→ шатаалгуул- 焼かさせる(他動詞の使役の使役)
補助語幹をとった他動詞の中には、他動詞の使役というよりは、事実上、別の他動詞と考えたほうがよいものがあり、その場合は、形式の上でも、もはや使役の構文は使えなくなります。以下、本来は不定格をとる動作の主体も、表示の便宜上対格で示します。
үз- 見る(他動詞)
хүүхэд номыг үз- 子どもが本を見る
→ үзүүл- 他動詞『見る』の使役『見させる』ではなく『示す』という別の他動詞として定着)
ээж хүүхдэд номыг үзүүл- 母親が子どもに本を見せる(他動詞としての構文:хүүхэдは動作 үз- の主体ではなく他動詞 үзүүл- 『示す』の相手(間接目的語))
ээж хүүхдээр номыг үзүүл- (×)(他動詞『見る』の使役『見させる』という意味は失っているので使役の構文はもはや使えない)
⇔ ээж хүүхдээр номыг уншуул- 母親が子どもに本を読ませる(他動詞『読む』の使役『読ませる』という意味が残っているので使役の構文が使える)
再帰的な他動詞の場合
動作が自分自身に向けられる再帰的な他動詞は、直接目的語をとるという点では確かに他動詞ですが、もともと自動詞に近い性質を持っています。したがって、一部の自動詞の場合と同じように、接続する補助語幹の性質によって、使役的になるか別の他動詞的になるかという傾向が見られることがあります。このとき、別の他動詞になっているものは、実際の動作主を表す補語の造格からの解放という現象が見られます。
次の自動詞と比べてみてください。
хүр- 届く(自動詞)
→ хүрүүл- 届かせる(自動詞の使役的) ⇔ хүргэ- 届ける(他動詞的)
ээж хөшгийг шаланд хүрүүл- お母さんがカーテンを床に届かせる(使役的)
жолооч даргыг гэрт нь хүргэ- 運転手がボスを家まで送り届ける(他動詞的)
өмс- 着る(他動詞)
→ өмсүүл- 着させる(再帰的他動詞の使役) ⇔ өмсгө- 着せる(別の他動詞)
ээж хүүхдээр хувцасыг өмсүүл- 母親が子どもに(自分自身に対して)服を着させる(再帰的他動詞の使役)
ээж хүүхдэд хувцасыг өмсгө- 母親が子どもに服を着せる(別の他動詞)
ол- 得る(他動詞)
→ олуул- 得させる(再帰的他動詞の使役) ⇔ олго- 与える(別の他動詞)
захирал ажилчдаар шинэ харилцагчийг олуул- 社長が従業員に新しい取引先を得させる(『見つけさせる』の意味で)(再帰的他動詞の使役)
захирал ажилчдад цалинг олго- 社長が従業員に給料を与える(別の他動詞)
使役をめぐる発想法の違い
一般に、文法規則を超えた言語ごとの発想法というものがあり、母語以外の言語を学習するときには、それらを一緒に習得しなければなりません。その多くは上級で学習すべきことですが、ここでは、使役に関係する若干の発想法で日本語話者が注意すべき点を挙げておきます。
日本語では、自分がその動作を行なうわけでもなく、実際には使役という状況であるにもかかわらず、自分自身を主語にした次のような構文がよく使われます。
昨日私は歯医者で歯を抜きました。
明日美容院に行って髪を切ります。
モンゴル語では、これらはすべて使役の構文で表さなければなりません。もっとも、実際の動作主を表す補語の部分は省略することもできます。これを日本語の直訳とともに示すと次のようになります。
Өчигдөр би шүдний эмнэлэгт шүдээ авахуулсан. 昨日私は歯医者で(歯科医師に)歯を抜かせました。
Маргааш үсчин ороод үсээ засуулна. 明日美容院に行って(美容師に)髪の毛を切らせます。
一方、日本語には、行為の受け手を主語とし、動作を行なう人をニ格で表す「AがBに~してもらう」という恩恵などを表す構文がありますが、モンゴル語ではこれもすべて使役の構文で表します。
以下、モンゴル語の直訳と日本語の表現を併記します。
Та нар Батболдын машинаар хүргүүлээрэй. 君たちはバトボルドの自動車で送り届けさせなさい。=君たちはバトボルドの自動車で送り届けてもらいなさい。
Манайх Сайнбаяр ахаар зураг авахуулсан. 私たちはサインバヤルさんに写真をとらせました。=私たちはサインバヤルさんに写真をとってもらいました。
次の例の動詞 заалга- は、「習う」という別の他動詞としてすでに成立していると見なすこともできそうですが、動作の主体(=先生)が造格から解放されるには至っていないので、現段階では依然として他動詞の使役です。
Би Самбуу багшаар монгол хэл заалгасан. 私はサンボー先生にモンゴル語を教えさせました。=私はサンボー先生にモンゴル語を教えてもらいました。
Би Самбуу багшаас монгол хэл заалгасан. (?)
【発音と正書法上の注意】
● 補助語幹 -уул- が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
短母音字で終わる語幹の場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
語幹 сана- 「意識する」: а脱落+-уул- → сануул-
語幹 дага- 「従う」 : а脱落+-уул- → дагуул-
я・ё で終わっている語幹の場合は、それらを残したうえで、-уул- の形を -ул- とします。
語幹 хая- 「捨てる」: +-ул- → хаяул-
語幹 оё- 「縫う」 : +-ул- → оёул-
長母音または二重母音で終わる語幹の場合は、子音 g がつなぎとして現れますので、綴りの上でもこれを表記します。
語幹 бай- 「ある」: г挿入+-уул- → байгуул-
ь で終わる語幹の場合は、-уул- を接続したときにできる綴り ьуул- の ьу の部分を母音字 и に変えて иул- にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иу という二重母音になるわけではありません。
語幹 тавь- 「置く」 +-уул- → тавьуул- → тавиул-
語幹 соль- 「換える」+-уул- → сольуул- → солиул-
ав- は特別に авахуул- という形になります。
● 補助語幹 -лга- の女性語交代形は、短母音字をうしろに書く -лгэ-/-лгө- という例外的な綴りになります。これは、動詞であることを示すためだけの綴りで、実際の発音とはまったく関係ありません。
語幹 хий- 「覚醒する」 +-лгэ- → хийлгэ- (実際の発音は хийлэг-)
語幹 зөө- 「運ぶ」 +-лгө- → зөөлгө- (実際の発音は зөөлөг-)
● 補助語幹 -га- の女性語交代形は、短母音字をうしろに書く -гэ-/-гө- という例外的な綴りになります。これは、動詞であることを示すためだけの綴りで、実際の発音とはまったく関係ありません。
語幹 хүр- 「届く」 +-гэ- → хүргэ- (実際の発音は хүрэг-)
語幹 хөөр- 「興奮する」 +-гө- → хөөргө- (実際の発音は хөөрөг-)
● 補助語幹 -аа- が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
短母音字で終わる語幹の場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
語幹 сэргэ- 「覚醒する」: э脱落+-ээ- → сэргээ-
ь で終わる語幹の場合は、-аа- を接続したときにできる綴り ьаа の ьа の部分を母音字 и に変えて иа にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иа という二重母音になるわけではありません。
語幹 зохь- 「合う」 +-оо- → зохьоо- → зохио-
なお、語尾 -уул- 及び -аа- は母音で始まる補助語幹ですから、子音字で終わる語幹にこれを接続するときには、正書法一般のいわゆる脱落母音の規則とその例外にも十分注意してください。