指小の表現(1)
形容詞の語幹に次の派生接辞を接続し、その形容詞・副詞が表す程度が小さく現れているという意味を派生させることができます。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-хан】
これは、その形容詞・副詞が表す程度そのものが「小さい」ことを表すものであり、元の形容詞・副詞の意味がプラスであるかマイナスであるかによって実質的な意味は相対的に変わる点に注意してください。
以下の説明では、煩雑を避けるために、副詞として使われるものでも形容詞としての意味で代表させて示します。
дулаан 暖かい
→ дулаахан 少し暖かい(暖かさの程度が小さい)
зөөлөн 柔らかい
→ зөөлхөн 少し柔らかい(柔らかさの程度が小さい)
эрт 早い
→ эртхэн 少し早い(早さの程度が小さい)
бага 少ない
→ багахан わずかに少ない(少なさの程度が小さい)
өндөр 高い
→ өндөрхөн 少し高い(高さの程度が小さい)
文脈や形容詞・副詞の種類によっては、その形容詞・副詞そのものではなく、被修飾名詞のほうに対する指小を表す場合があります。日本語に訳す方法はありませんが、指小されているのがあくまでも名詞であることに注意が必要です。
цагаан байшин 白い建物
→ цагаахан байшин 白くかわいい建物(『少し白い建物』ではない)
амттай хоол おいしい料理
→ амттайхан хоол おいしくて素敵な料理(『少しおいしい料理』ではない)
-хан は、形容詞的に使われる数詞にも接続し、「たった~の」・「わずか~の」という話し手のマイナスの評価を付け加えることができます。接辞が接続するときには、Н交代語幹ではない形に語幹が戻りますので注意してください。
хоёр ном 2冊の本
→ хоёрхон ном たった2冊の本
мянган төгрөг 1000トゥグルグ
→ мянгахан төгрөг わずか1000トゥグルグ
単語である基数詞の組み合わせによる数詞の場合は、評価を付け加えたい部分によって接続する位置が変わります。
гурван зуун төгрөг 300トゥグルグ
→ гурван зуухан төгрөг わずか300トゥグルグ(1000などほかの桁の数との比較で評価する場合)
→ гуравхан зуун төгрөг わずか300トゥグルグ(600など3桁内部の数との比較で評価する場合)
よく使われる形容詞・副詞の中には、むしろこの接辞が接続した形のほうが頻繁に使われるようになった結果、接辞がない場合と同じ意味に戻っているものも少なくありません。
жижиг 小さい
= жижигхэн 小さい(語幹と同じ意味で使われる)
богино 短い
= богинохон 短い(同)
ойр 近い
= ойрхон 近い(同)
цэвэр 清潔な
= цэвэрхэн 清潔な(同)
これとは逆に、この接辞が接続した形が現在では別の意味で使われているものもあります。
сайн よい
→ сайхан 美しい・すばらしい
指小の表現(2)
(1)で見たもののほか、主として色や形を表す形容詞に接続する次のような派生接辞があります。
【語幹-втар】
【語幹-дуу】
これらも、その形容詞・副詞が表す程度そのものが「小さい」ことを表します。
улаан 赤い
→ улаавтар 少し赤い(赤さの程度が小さい)=赤っぽい・赤みがかった
нарийн 細い
→ нарийвтар 少し細い(細さの程度が小さい)
цэнхэр 青い
→ цэнхэрдүү 少し青い(青さの程度が小さい)=青っぽい・青みがかった
хөгшин 老いた
→ хөгшиндүү 少し老いた(老いの程度が小さい)
-втар と -дуу はこの順序で続けて使われることもあります。この場合、程度がより小さいというニュアンスを表します。
улаан 赤い
→ улаавтардуу わずかに赤い(赤さの程度がごく小さい)
比較と最上の表現
モンゴル語には級(degree)の区別がないため、形容詞・副詞が比較や最上を表しているかどうかをその形容詞・副詞自身から判断することはできず、それらの意味は、次のように間接的に表されることになります。
まず、比較の場合、比較の対象が奪格や様態格、後置詞などによって示されますので、構文の中にそのような項が存在することで、事実上の比較級となります。
Манай ангид надаас өндөр хүн байгаагүй. うちのクラスには私より背が高い人はいませんでした。
Мэгий сүү шиг цагаан сэтгэлтэй. メギーはミルクのように白い(純真なの意)心をしています。
Би Японоор чамтай адил цэвэрхэн ярьж сурмаар байна. 私は君と同じくらい上手に日本語で話せるようになりたいです。
Хүний толгойн чинээ том шийгуаг авсан. 人の頭ほど大きなスイカを買いました。
一方、形容詞・副詞が「もっとも~」・「一番~」に相当する修飾語成分をとると、事実上の最上級となります。そのような構文を作る修飾語成分としては次の形があります。本来は名詞を修飾するためにあるはずの属格が例外的に出てくるところに注意してください。
хамгийн 【形容詞/副詞】
Монголд хамгийн их иддэг хоол гурилтай шөл. モンゴルでもっともよく食べる料理は肉うどん(風のもの)です。
Манай ангийн хамгийн сайн сурагч Батболд байлаа. うちのクラスで一番優秀な生徒はバトボルドでした。
ただし、最上を表すこれらの修飾語成分も、語彙的に最上を意味するというだけであって、単なる強調を表す次のような語と文法的な違いがあるわけではありません。
туйлын гайхамшигтай 非常に不思議な
зүйрлэшгүй сайхан 例えようがないほど素晴らしい
хавьгүй олон 比べるものがないほどたくさんの
ижилгүй мундаг 肩を並べるものがないほど優秀な
重複法による強調表現
モンゴル語では、次のような重複法による表現が形容詞・副詞について用いられます。
【語幹:属格/奪格】 【語幹】
形容詞・副詞をふたつ重複させ、前のほうを属格または奪格にした形は、形容詞・副詞の程度が非常に大きいことを表します。
хол 遠い
→ холын хол ~ холоос хол 非常に遠い
хатуу 硬い
→ хатуугийн хатуу ~ хатуугаас хатуу 非常に硬い
属格による形は、文脈によって「もっとも~」という最上の意味になることもあります。
Мэдлэг бол дээдийн дээд баялаг. 知識こそもっとも貴重な財産である。(文に含まれるとりたての бол についてはあとのステップで学習します)
【語幹の最初の母音までの形-в】 【語幹】
形容詞・副詞の語幹から最初の母音までの部分を切り分けたうえで子音 b を付け、同じ語幹の前に置くと、形容詞・副詞の程度が非常に大きいことを表します。
улаан 赤い
→ ув улаан 非常に赤い=真っ赤な
зүгээр 平気な/平然と
→ зүв зүгээр まったく平気な/まったく平然と
ただし、第一音節が長母音・二重母音で終わっている場合は、対応する短母音に代えた形に子音 b が付きます。
хүйтэн 寒い/冷たい
→ хүв хүйтэн 非常に寒い/冷たい
хүйв хүйтэн (×)
【発音と正書法上の注意】
● 派生接辞 -хан が子音 n で終わる語幹に接続するとき、その子音 n は脱落しますので、綴りのうえでもこれを反映させます。
語幹 дулаан 「暖かい」: н脱落+-хан → дулаахан
語幹 сайн 「よい」 : н脱落+-хан → сайхан
● 派生接辞 -втар が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
子音 n で終わる語幹に接続するときは、その子音 n が脱落しますので、綴りのうえでもこれを反映させます。
語幹 улаан 「赤い」: н脱落+-втар → улаавтар
語幹 хөгшин 「老いた」 : н脱落+-втөр → хөгшивтөр (下線部については次の注意を参照)
その他の子音字で終わる語幹の場合は、派生接辞の直前に必ず短母音字を挟みます
語幹 шар 「黄色い」: -втар → шаравтар
語幹 хөх 「青い」 : -втөр → хөхөвтөр