東京外国語大学言語モジュール

連用節(4) 逆接と譲歩

逆接と譲歩を表す連用節
 
  連用節と主文のさまざまなつながり方のうち、節の事態が成立するのに伴って主文の事態も成立するという予想や期待が実現しないことを表すのが逆接を表す連用節です。一方、ふたつの事態の関係をいったん仮定したうえで、それが成り立たないことを示すのが譲歩を表す連用節です。モンゴル語の場合、両者は連続していますので、このモジュールではそれらをまとめて取り扱うことにします。
 
  逆接と譲歩を表す連用節は、動詞の副動詞形の一部と、さまざまな接続形式によって表されます。
  また、もっぱら逆接を表す接続形式もあります。
副動詞形によるもの
 
  副動詞形のうち、逆接と譲歩を表す連用節を作るものは次のとおりです。→【発音と正書法上の注意】
 
      【語幹-вч
 
  この形のあとには必要に応じてコンマが書かれる場合もあります。
 
  語尾 -вчとった連用節はまず、ふたつの事態の関係をいったん仮定したうえで、必ずしもそれが成り立たないという譲歩の関係を表します。日本語では多くの場合、「~としても」に対応します。
 
      Сэр-Од уурлавч хүнтэй хамаагүй хэрэлддэггүй.  セルオドは怒ったとしても他人とみだりに口論しません。
 
  文脈によっては、節の事態の成立に伴って主文の事態も成立するという予想や期待が実現しないという逆接の関係に近い意味を表すこともありますが、節の述語は、動詞の語幹から直接作られる以上、独自のテンスを持たないわけですから、あくまでも条件の一種である譲歩のニュアンスは残ります。
 
      Манай ангийнхан хичээл таравч шууд гэртээ харьдаггүй.  うちのクラスの人々は授業が終わってもすぐには家に帰りません。
 
  節の述語は動作動詞だけでなく状態動詞も可能です。ちなみに、次の例も、譲歩とも逆接ともとれるつながり方になっています。
 
      Манайд сүх байвч ишгүй, хутга байвч мохоо.  我が家には斧があっても柄がなく、ナイフがあっても鈍らです(何の役にも立たないの意)。
 
  このように、この副動詞形は、ほとんどの場合、節の主語と主文の主語が同じ構文を作りますが、両者が一致しない場合であっても、節の主語が主格のままで対格にならないという特徴があります。
 
      Би тэр зүг рүү хичнээн ширтэвч, онгоц харагдахгүй байлаа.  私がその方向をどんなに見つめても、飛行機は見えませんでした。
      Намайг тэр зүг рүү хичнээн ширтэвч…  (×)
 
 
  節が独自のテンスを持っていたり、補助動詞のないコピュラ文であったりする場合には、補助動詞を導入することによってこの副動詞形を使うことができます。ただし、この場合は、譲歩から、「~にもかかわらず」・「~なのに」という逆接へと節のつながり方が変わることになりますので注意してください。
  補助動詞としては、бол- 「~になる」から作られる боловч がもっとも多く使われますが、スタイルによっては、байвчавчгэвч などの形が用いられることもあります。
 
      Бороо нэлээн хүчтэй орсон боловч, маргааш нь газар хув хуурай байлаа.  雨がかなり激しく降ったにもかかわらず、その翌日地面はカラカラに乾燥していました。
      Сувдаа ажил ихтэй боловч, өдөр бүр вассеньд сэлдэг.  ソブダーは仕事が多いにもかかわらず、毎日プールで泳いでいます。
      Амгалан миний шавь боловч, үнэхээр сурлага муутай.  アムガランは私の教え子なのに、成績のほうは本当にダメです。
接続形式によるもの
 
  次のような接続形式によって、逆接と譲歩を表す連用節が作られます。
 
      【連用節  ч гэсэн
 
      【連用節  ч гэлээ
 
      【連用節  ч   
 
      【連用節  чиг
 
  これらの構文はいずれも、文脈によって逆接と譲歩のいずれかを表します。
  このとき、逆接を表している場合は、前の項で見た補助動詞による構文と同じ意味になりますが、譲歩を表している場合は、補助動詞による構文と入れ替えるとつながり方が違ってしまいますので注意してください。
 
      Сая жаахан цас орсон ч гэсэн бүгд хайлчихжээ.  さっき少し雪が降りましたが、全部とけてしまいました。(逆接)
      орсон боловч 
      Мэдэхгүй ч гэлээ чамаас асуухгүй.  知らなくても君には質問しません。(譲歩)
      ⇔ мэдэхгүй боловч  知らないにもかかわらず(逆接)
 
  補助動詞のないコピュラ文がそのまま節になることもできます。
 
      Би маханд дуртай ч гэсэн заримдаа уйдчихдаг.  私は肉が好きですが、時には飽きてしまうこともあります。(逆接)
      Хичнээн япон хүн ч гэсэн иддэггүй загас бий.  いかに日本人でも食べない魚はあります。(譲歩)
逆接だけを表す形
 
  上で見た形は逆接と譲歩の両方を表していましたが、モンゴル語には、もっぱら、「~にもかかわらず」・「~なのに」という逆接を表す次のような形があります。
 
 
      【連用節  述語形動詞形  мөртлөө
 
  この形式は比較的中立的な逆接を作ります。
 
      Бэгий гитар сайн тоглодог мөртлөө дуунд тааруу.  ベギーはギターを上手に弾きますが、歌は下手です。
 
  補助動詞のないコピュラ文も同様です。
 
      Сампил өвгөн баян мөртлөө хэнд ч тусалдаггүй.  サムピルじいさんは金持ちなのに誰にも援助しません。
 
 
      【連用節  述語語幹-аад байхад чинь
 
  この形式は、ややくだけたスタイルとなりますが、ふだんの発話ではきわめてよく使われます。多くの場合は非難のニュアンスを持ちますので、使う文脈には注意が必要です。
 
      Түрүүнээс хойш дуудаад байхад чинь яагаад анзаарахгүй байгаа юм бэ?  さっきから呼んでいるのにどうして気づかないでいるのですか。
      Би монгол хүн гээд байхад чинь тэр хүн над руу Японоор яриад байх юм.  私はモンゴル人ですと言っているのに、その人は私にずっと日本語で話してくるのです。
 
 
      【連用節  述語形動詞形  байж
 
  補助動詞のないコピュラ文からも同じように作ることができます。
 
  この形式も、節の事態から期待される行動が実現されないことへの非難の気持ちを表します。日本語では、多くの場合「~くせに」に相当しますので、同じく対人関係の点から注意が必要です。 
 
      Мөнхжин намайг сайн таньдаг байж тоохгүй өнгөрчихлөө.  ムンフジンは私のことをよく知っているくせに、無視して通り過ぎてしまいました。
      Миний найз Монгол хүн байж морь унаж чаддаггүй юм.  私の友人はモンゴル人のくせに馬に乗れないのです。
 
  これに対して、前の項で見た боловч による構文には、そのような積極的な非難のニュアンスは感じられません。
 
      Миний найз монгол хүн боловч морь унаж чаддаггүй юм.  私の友人はモンゴル人ですが馬に乗れないのです。
【発音と正書法上の注意】
 
● 語尾 -вч が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
 
  子音字で終わる場合は、それら語尾の直前に必ず短母音字を挟みます。
 
     語幹 унш- 「読む」+-вч уншивч
     語幹 ид- 「食べる」+-вч идэвч
 
  ь で終わる場合は、語幹末の ь и に変えます。
 
     語幹 урь- 「招く」+-вч уривч
     語幹 зохь- 「合う」+-вч зохивч
 
● 接続形式 ч гэсэн は続けて発音されることにより、чиг-сэн という2音節のように聞こえます。
 
     綴り явсан ч гэсэн→ 実際の発音 явсан чигсэн