東京外国語大学言語モジュール

モダリティ(6) 概言

概言表現
 
  話し手がある文を発するとき、その内容を真実だと確信している場合と確信できないでいる場合とがあり、ことばの形式のうえに反映されます。このとき、真実であると確信できないまま述べるための形式が概言の表現です。確信できないでいる状態には実際にはさまざまなレベルがあります。
 
  概言の表現は、さまざまな文末形式によって表されますが、これには、述語動詞の語幹に直接接続するものと、終助詞をはじめとして述語動詞のあとに置かれるものとがあります。
述語動詞に直接接続するもの
 
  モンゴル語の概言の表現のうち、述語動詞に直接接続して作られる形式には次のようなものがあります。接続にあたっての正書法上の注意は、語幹に接する部分の語尾に関連するステップを参照してください。
 
形式
意味
日本語の類似形式
-ж магадгүй
可能性・蓋然性
~するかもしれません
-х ёстой
ある程度強い証拠に基づく推定
~するはずです
-х нь  (平叙文
-хгүй нь  (否定文)
やや弱い証拠に基づく推定
~する(しない)ようです
~する(しない)みたいです
~し(しなさ)そうです
 
  -х нь のあとには終助詞 ээ が続くことが少なくありません。
 
      Маргааш бороо орж магадгүй明日は雨が降るかもしれません。(可能性・蓋然性)
      Маргааш бороо орох ёстой明日は雨が降るはずです。(ある程度強い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орох нь ээ明日は雨が降りそうです。(やや弱い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орохгүй нь ээ明日は雨が降らなさそうです。(やや弱い証拠に基づく推定)
 
  質問文を作る終助詞を置くことによってそのまま質問文にすることもできます。
 
      Маргааш бороо орж магадгүй юү明日は雨が降るかもしれませんか?(可能性・蓋然性)
      Маргааш бороо орох ёстой юу明日は雨が降るはずですか?(ある程度強い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орох нь уу明日は雨が降りそうですか?(やや弱い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орохгүй нь уу明日は雨が降らなさそうですか?(やや弱い証拠に基づく推定)
 
 上記はいずれも、これから起こる事態に対する確信の度合いを表現するための形式です。これに対し、述語動詞が現在や過去など別のテンスを持っている場合や、コピュラ文で補助動詞が出てきていない場合、さらに、テンスに関わらず否定文である場合には、上記の形式を作るための便宜として、補助動詞 бай- を挿入し、その語幹に対してこれらの形式を接続します。このとき、補助動詞бай-の前の述語動詞で、これから起こる事態以外のテンスを表す部分は、終止形ではなく、形動詞形を利用した一連の形式の中から、自分の表したいテンスに最も近いものを選びます。なお、テンスが過去の場合は、過去に起こった事態に対する現時点での判断であり、その判断が過去に行なわれたというわけではない点に注意してください。
  以下、-х ёстой を例にして示します。
 
      Өчигдөр бороо орсон байх ёстой昨日は雨が降ったはずです。
      Энэ Доржийн машин байх ёстойこれはドルジの車のはずです。
      Маргааш бороо орохгүй байх ёстой明日は雨が降らないはずです。
      Энэ Доржийн машин биш байх ёстойこれはドルジの車ではないはずです。
 
  -х ёстой は、ёстой を欠如の派生接辞による ёсгүй に代えることによっても否定の推定を表すことができますが、この場合は、可能性の否定という微妙に異なるニュアンスを持ちます。
 
      Маргааш бороо орох ёсгүй明日は雨が降るはずがありません。(可能性の否定)
      Маргааш бороо орохгүй байх ёстой明日は雨が降らないはずです。(ある程度強い証拠に基づく推定)
 
  初めのふたつの形式全体の最後にさらに補助動詞 бай- を置き、それを過去形にすると、過去における判断を表すことができます。さきに見た「過去の事態に対する現在の判断」との違いには十分に注意してください。
 
      Бороо орж магадгүй байсан雨が降るかもしれませんでした。(過去における判断)
      Бороо орсон байж магадгүй雨が降ったかもしれません。(過去の事態に対する現在の判断)
 
  このとき、判断の対象である事態そのもののテンスは、判断を行なった過去のある時点から見た過去または未来となりますので、事態そのもののテンスが、過去のある時点から見てさらに過去のことなのであれば、それに合わせて形を変える必要があります。
 
      Бороо орсон байж магадгүй байсан 雨が降ったかもしれませんでした。(過去のある時点から見た過去の事態について過去に判断)
      Бороо орж магадгүй байсан雨が降るかもしれませんでした。(過去のある時点から見た未来の事態(ただし現在から見れば過去であることは同じ)について過去に判断)
 
述語動詞のあとに置かれるもの
 
 以下のようなものは、述語動詞のあとに文末形式として置かれます。このとき、補助動詞бай-の前の述語動詞は、終止形ではなく、形動詞形を利用した一連の形式の中から、自分の表したいテンスに最も近いものを選びます。この際、テンスがこれから起こる事態である場合は、平叙文では対応する文末形式が存在しないことから、質問文などの場合に出てくる語尾-хを用います。ただし、гэнэ ээ の前の述語動詞は、形動詞形 -хではなく終止形 -на とすることが可能です。また、бололтой の前にも終止形 -в をとった形が来ることがあります。
 
      述語形動詞形】 + 【以下の形式】
 
形式
意味
日本語の類似形式
байх
判断保留
~でしょう
~と思います
байлгүй
ある程度強い証拠に基づく推定
~のではありませんか
~でしょう
бололтой
やや弱い証拠に基づく推定
~ようです
~みたいです
~しそうです(非過去)
юм шиг байна
やや弱い証拠に基づく推定
~ようです
~みたいです
~しそうです(非過去)
гэнэ ээ
伝聞
~ということです
 
  байх のあとには、多くの場合さらに終助詞 аа が置かれます。この場合、ふつうの速度で発音されると二重母音が短母音に近くなり、бахаа と聞こえますので注意しましょう。
  байлгүй のあとに終助詞 дээ が置かれることもあります。また、байлгүй よりも確信の度合いが高い байлтай という形もありますが、байлгүй ほどは使われません。
  юм шиг байнабайна はくだけたスタイルでは省略されることもあります。
 
  各形式が表す話し手の確信の度合いについては現在のところ十分な研究が行なわれておらず、あくまでも大まかな目安ということになります。
 
      Маргааш бороо орох байх аа明日は雨が降るでしょう。(判断保留)
      Маргааш бороо орох байлгүй明日は雨が降るのではありませんか。(ある程度強い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орох бололтой明日は雨が降るようです。(やや弱い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орох юм шиг байна明日は雨が降るようです。(やや弱い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орно гэнэ ээ明日は雨が降るということです。(伝聞)
 
  これらの形式は、補助動詞のないコピュラ文のあとにそのまま置くこともできます。
 
      Энэ Доржийн машин юм шиг байнаこれはドルジの自動車のようです。
 
  бололтой と юм шиг байна はそのまま質問文を作ることもできます。
 
      Маргааш бороо орох бололтой юу明日は雨が降るようですか?(やや弱い証拠に基づく推定)
      Маргааш бороо орох юм шиг байна уу明日は雨が降るようですか?(やや弱い証拠に基づく推定)
 
 гэнэ ээ は質問文にすると次のような形になります。
 
      Маргааш бороо орно гэнэ үү明日は雨が降るということですか?(伝聞)
 
 
  述語は過去テンスや否定形であることも可能です。ただし、過去の場合、話し手の判断はあくまでも発話の時点ということになります。語幹に直接接続する形式とは異なり、過去の判断を表すことは基本的にできません。
 
      Өчигдөр бороо орсон байх аа昨日は雨が降ったでしょう。(判断保留)
      Өчигдөр бороо орсон байлгүй дээ昨日は雨が降ったはずです。(ある程度強い証拠に基づく推定)
      Өчигдөр бороо орсон бололтой昨日は雨が降ったようです。(やや弱い証拠に基づく推定)
      Өчигдөр бороо орсон юм шиг байна昨日は雨が降ったようです。(やや弱い証拠に基づく推定)
      Өчигдөр бороо орсон гэнэ ээ昨日は雨が降ったということです。(伝聞)
 
  ただし、次のふたつは、形式に含まれる補助動詞や新たに補助動詞を付け加えることによって判断じた時点そのもののテンスを表すことができます。
 
      Өчигдөр бороо орох бололтой байлаа昨日は雨が降りそうでした。
      Өчигдөр бороо орох юм шиг байлаа
 
 
  このほかに、補助動詞のないコピュラ文にだけ置くことができる次のような形式もあります。
 
      【補助動詞のないコピュラ文】  мөн
 
  これは、概言の中でもっとも確信度が高い「~に違いない」・「~にほかならない」という確信を表します。
 
      Энэ Доржийн машин мөнこれはドルジの自動車に違いありません。
 
  мөн のあとに質問文を作る終助詞などを置くことで質問文を作ることもできます。
 
      Энэ Доржийн машин мөн үүこれはドルジの自動車に違いありませんか?
 
  мөн は動詞のあとには置かれませんので、コピュラ文自身がテンスを持つ場合はこの表現を作ることができませんが、判断の時期そのものを過去などにずらすときは、この形式全体のあとに補助動詞を付けることで表します。
 
      Тэр Доржийн машин мөн байсанあれはドルジの自動車に違いありませんでした。