意志と勧誘の表現
ある行為を行なう意志が存在することをはじめとして、話し手の意志にかかわるさまざまな表現をまとめて意志の表現と呼びます。意志の表現は、使い方によっては勧誘の表現にもなります。
このステップでは、意志と勧誘の表現をまとめて学習します。
意志と勧誘の表現は、動詞の希求形の一部と、そのほかのさまざまな文末形式によって表されます。
意志の表現(1) 希求形によるもの
希求形のうち、意志の表現を作るものは次の2種類です。これらの希求形をとる主語は1人称に限られます。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-я】
【語幹-сугай】
語尾 -я をとった希求形は、主語が単数すなわち би であるときと、誰が誰に述べているのかが文脈的にはっきりしているときは、「~しましょう」という話し手の意志を表します。
Би маргааш танайд очъё. 私は明日おたくに行きましょう。
Одоохон танд зааж өгье. 今すぐあなたに教えてあげましょう。
この表現のあとには、強調を表す終助詞 аа が後続することもあります。
Одоо бууя аа! ここで降りまーす!(バスの中で)
モンゴル語では、文脈によっては意志の表現が話し手の要求を表すためにも使われます。これは、ことばの構造そのものを超えた発想法の問題ですが、日本語話者には慣れるまで注意が必要です。
2 кило үхрийн мах авъя. 牛肉2キロをください。(直訳は『買いましょう』という意志の表現)
語尾 -сугай をとった希求形は、法令や布告、決議など硬いスタイルの公的文書で、決定事項を主体の意志として伝達するときに使われます。この形は、スタイルの制限があるというだけで、現代語でもよく使われます。
Нөхөр С. Лувсаныг Сүхбаатарын одонгоор шагнасугай. ロブサン同志をスフバートル勲章で顕彰する。
Орж суралцахыг зөвшөөрсүгэй. 入学を許可する。
この表現は、助詞 бүү を前に置くことによって否定の意味に変えることができます。
Нэмэгдэл цалинг бүү олгосугай. 追給は給付せず。
意志の表現(2) そのほかの文末形式によるもの
前の項で見た希求形による表現以外に、以下のような文末形式が意志にかかわる表現として用いられます。
【語幹-хаас】.
語幹に接続する -х は非過去の形動詞形に奪格語尾が付いたものですから、正書法上の注意は関係するステップを参照してください。
この形は、「~しようかな」という控え目な意志や、「(本当はあまりしたくないのだが)~するかな」という消極的な気持ちを表します。
Өө, тэгвэл идэж үзэхээс. ほう、それなら食べてみようかな。
За, за, одоо унтахаас. あーあ、(仕方がないので)もう寝るかな。
この表現のあとには、終助詞 даа が後続することもあります。
【語幹-х】 санаатай
【語幹-х】 бодолтой
これらの表現も、語幹に接続する -х は非過去の形動詞形ですから、接続方法に注意してください。また、санаатай 及び бодолтой の部分は名詞に所有の派生接辞が接続したものですから、補助動詞を使ってテンスを付け加えることもできます。
この形は、「~するつもりだ」という話し手の明確な意志を表します。
Маргааш ажлаасаа гарах санаатай. 明日退職するつもりです。
Уг нь явах бодолтой байлаа. 元々は出かけるつもりでした。
話し手の意志は事前に決意したことに限られますので、その場で決めた場合には使うことができず、希求形 -я による表現を用いなければなりません。
― Маргааш танайд очно оо. 明日おたくに行きますよ。
― Тэгвэл нэг мөсөн Мэндээг дуудах санаатай. (×)「それならいっそのことメンデーを呼びましょう。」
― Тэгвэл нэг мөсөн Мэндээг дуудъя. それならいっそのことメンデーを呼びましょう。
【語幹-х】 юм уу.
【語幹-даг】 юм уу.
語幹に接続する語尾についてはそれぞれのステップを参照してください。
これらの形は、「~しようかな(どうしようか)」という意思決定における話し手のためらいの気持ちを表します。それぞれの形動詞形の意味はすでに失われ、固定化した表現として用いられます。
Тэгвэл өнөөдөр болих юм уу. それなら今日はやめようかな。
Одоо усанд ордог юм уу. そろそろ風呂に入ろうかな。
юм の前に ч が入ることもあります。
Тэгвэл өнөөдөр болих ч юм уу. それなら今日はやめようかな。
Одоо усанд ордог ч юм уу. そろそろ風呂に入ろうかな。
勧誘の表現
勧誘の表現は、次のような文末表現によって表されます。
【語幹-х】 уу?
【語幹-хгүй】 юү?
以前にも一部言及しましたが、非過去の質問文の形は勧誘の表現として使うことができます。
Одоо хөдлөх үү? もう出発しましょう。
Маргааш манайд ирэхгүй юү? 明日うちに来ませんか?
このほか、意志の表現を作る希求形 -я で、主語が1人称複数の包括形であるときと、はっきりと示されていないときは、実質的な勧誘の表現になります。
Бид нар одоо явъя. 私たちはもう出かけましょう。
За, энд хоолоо идье. さあ、ここで食事にしましょう。
意志と勧誘の強調
ややくだけたスタイルになりますが、希求形 -я のあとに次のような形式が置かれ、意志や勧誘の意味を強調することがあります。この形式は日常の会話ではきわめてよく使われます。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-я】, тэгэх үү?
この形式の本来の形は、指示代動詞 тэг- 「そうする」が上記の勧誘の表現(非過去の質問文)をとったもので、直訳すると「そうしますか」ということになります。
Би танайд очъя, тэгэх үү? 私のほうがおたくに行きますよ。
За, энд хоол идье, тэгэх үү? さあ、ここで食事にしましょう。
一方、次のような終助詞を最後に置くと、勧誘が聞き手に対して向けられたものであることが強調されます。日本語では「~しましょうよ」に相当します。
【語幹-я】 л даа.
Хоёулаа Болороогийнд очъё л доо. 一緒にボルローのうちに行きましょうよ。
【発音と正書法上の注意】
● 語尾 -я が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
子音字で終わる男性語幹の場合は、硬音符を挿入させたうえで接続します。
語幹 яв- 「行く」: ъ挿入+-я → явъя
語幹 ор- 「入る」 : ъ挿入+-ё → оръё
子音字で終わる女性語幹の場合は、軟音符を挿入させたうえで接続します。
語幹 өг- 「与える」: ь挿入+-е → өгье
語幹 ир- 「来る」 : ь挿入+-е → ирье
その他の語幹の場合は、そのまま接続します。
語幹 дага- 「従う」: -я → дагая
語幹 хүргэ- 「届ける」: -е → хүргэе
語幹 хая- 「捨てる」: +-я → хаяя
語幹 хай- 「探す」: +-я → хайя
語幹 асуу- 「たずねる」: -я → асууя
語幹 соль- 「代える」 +-ё → сольё
なお、語尾 -я(-ё/-е)は、音としてはあくまでも半子音 j だけですから、文字に惑わされて末尾に余計な短母音を発音しないように注意しましょう。
● 語尾 -сугай に含まれる母音字 у (母音調和した場合は ү)は、第二音節以降であるにもかかわらず書かれ、正書法の例外となります。
● тэгэх үү の тэгэх は、ほとんどの場合 г が脱落して тэх үү と発音されます。