東京外国語大学言語モジュール

逆接

これだけは覚えよう
文の作り方
1 単文S1と単文S2を、矛盾・対立の関係でつないで複文を作るときには、次のような表現があります。「のに」は「動詞、イ形容詞の普通形、ナ形容詞+な、N+な」に接続します。「けれども」は普通形、丁寧形両方に接続します。「のに」は丁寧形につくことはありません。
 
 
(1)一生懸命勉強したのに試験に落ちました。
(2)このメロンは大きいのに安いです。
 
 
(3)毎日日本語を勉強しているけれども、なかなか漢字が覚えられません。
(4)山田さんはいつも元気ですけれども、きょうは静かです。
「のに」と「けれども」の意味
2 「のに」・「けれども」は、事実的な逆接に使われます。「のに」は、S1から本来予想されることとは食い違うことがらがS2として成立することを述べ、多くの場合それに対するおどろきや不満が表現されます。
(1)一生懸命勉強したのに試験に落ちました。
(2)このメロンは大きいのに安いです。
(5)きょうは日曜日なのに仕事があります。
(6)さっき食べたのにもうおなかがすきました。
¶「けれども」はS2が予想と食い違うことがらであることに対する驚き・不満・意外感を表わしません。
(3)毎日日本語を勉強しているけれども、なかなか漢字が覚えられません。
(4)山田さんはいつも元気ですけれども、きょうは静かです。
(7)雨が降ったけれども予定通り運動会をしました。
3 「のに」の文のS2は基本的に事実であることがわかっていることがらです。そのため、S2に次の①、②、③のような表現がくることはありません。一方、「けれども」のS2には、「のに」のような制限はありません。
 
①命令・依頼・意志などの表現
(8)もう夜の12時だけれども、もう少し勉強しよう。
(8)’×もう夜の12時なのに、もう少し勉強しよう。
②「だろう」「かもしれない」などの話し手の判断を表わす表現
(9)小林さんはかぜをひいているけれども、学校に来ているかもしれません。
(9)’×小林さんはかぜをひいているのに、学校に来ているかもしれません。
③質問の表現
(10)日曜日だけれども、学校に行きますか。
(10)’×日曜日なのに、学校に行きますか。
¶ただし、「行くんですか」の場合は「のに」が使えます。
4 「けれども」は、逆接の意味自体があまり強くなく、S1とS2を対比的に並べて示している場合もあります。
(11)わたしは東京に住んでいるけれども、弟は京都に住んでいます。
「けれども」の類義表現
5 「けれども」と同じ意味で、「けれど、けど、が」という表現があります。「けれども」「けれど」「けど」の順で、より話しことば的になります。「~が」は書きことば、話しことば両方で使われます。
(3)’毎日日本語を勉強している{けれども/けれど/けど/が}、なかなか漢字が覚えられません。
(4)’山田さんはいつも元気です{けれども/けれど/けど/が}、きょうは静かです。
余裕があれば
6 上の3①で、命令・依頼の文はS2にくることができないと言いましたが、「ある行為をしないこと」を命令したり依頼したりする禁止の表現は、「のに」のS2に使うことができます。ただし、これはすでにその行為をしようとしている人に対して言う場合に限られます。
(12)わたしが話しているのに、じゃまをしないでください。
7 「のに」には、S1にあたる部分だけを述べる終助詞的用法と呼ばれるものがあります。この場合、通常の「のに」のS2にあたるのは、相手の発話内容や状況です。予想外の発話や状況に対して、その予想の前提となっていたことがらS1を示すことにより、おどろきや意外感を表わすことができます。
(13)A:鈴木さんから電話ですよ。
  B:えっ、もう夜の11時なのに。
8 「けれども」や「けれども」の類義表現には逆接の意味が全くない用法もあります。S1で、S2に述べることがらの話題を示したり(例文(14))、前提となる情報を示したり(例文(15))、相手に質問や依頼などをすることをあらかじめ知らせたり(例文(16))するもので、広い意味での前置きを提示する表現と言えます。
(14)レポートのことですけれども、来週の月曜日に提出してください。
(15)日本中を旅行しましたけれども、京都が一番すきです。
(16)すみませんが、郵便局はこの辺ですか。
9 「けれども」の部分だけを述べる、終助詞的な用法もよく使われます。これは、前置きの用法の前置き部分だけを述べたものととらえることができます。後にくる部分を聞き手に察してもらおうとしているもので、質問や依頼をする場合によく使われます。
(17)すみません、パソコンが動かないのですけれども。
(17)’すみません、パソコンが動かないのですけれども、見てもらえますか。