東京外国語大学言語モジュール

呼称(呼びかけの語)

 呼びかけに用いる語は、呼びかけるときに用いられるだけでなく、人称代名詞と同じような使い方をします。
 
■Bapak と Ibu
 
※ とりわけ目上や社会的地位を持つ相手に対しては、男性には Bapak(「父」の意)、女性には Ibu (「母」の意)を用います。呼びかけとして用いるこれらの語は、文中でも大文字で書き始め、元の意味(「父」「母」)と区別します。Bapak や Ibu は、単独で人称代名詞のように用いるほか、「~氏」「~さん」のように個人名の前に述べることもあります。
 
[1a] Ibu tinggal di mana?
あなたはどちらに住んでいますか?
 
[1b] Ibu Sri tinggal di mana?
スリさんはどちらに住んでいますか?
 
[2a] Anak itu anak Ibu, bukan?
その子どもはあなたのお子さんですよね?
 
[2b] Anak itu anak Ibu Sri, bukan?
その子どもはスリさんのお子さんですよね?
 
[2c] Anak itu anak Bu Sri, bukan?
その子どもはスリさんのお子さんですよね?
 
[3] Bapak akan mengajar bahasa Indonésia kepada Anda.
私はあなたにインドネシア語を教えます。
 
 例文[1a]の主語 Ibu は目上や社会的地位を持つ女性であり、その女性が話し相手つまり「あなた」となります。ただし文脈によっては、第三者の女性を指すこともあります。例文[2a]の Ibu も同様ですが、anak「子ども」の修飾語となっています。
 例文[1b]と[2b]の Ibu Sri「スリさん」は、個人名に Ibu を用いています。[1b]に関しては、文の初めの語は大文字で書き始めるという規則があるため、ibu Sri「スリのお母さん」という意味で用いている可能性もあります。Ibu Sri「スリさん」かibu Sri「スリのお母さん」かは、状況や文脈から判断できます。
 呼びかけに用いる Ibu には Bu という短縮形があり、「スリさん」は例文[2c]のように Bu Sri とも言うことができます。男性に用いる Bapak の短縮形は Pak となり、例えば「ブディさん」はBapak Budi とも Pak Budi とも言います。
 Bapak や Ibu は2人称や3人称ばかりでなく1人称つまり「私」を示すこともあります。例文[3]のように、目上あるいは社会的地位のある人が目下の者に対して(例えば先生が生徒に対して)話すときに、自分のことをBapak や Ibu と呼ぶことがあります。
 

■Saudara
 
※ saudara「きょうだい」も、呼びかけの語として使うことがあり、その場合にはSaudaraと文中でも大文字で書き始めます。Saudara Iwan「イワン君」のように後に個人名を続けて使うこともできます。Saudaraは基本的には同等もしくは目下に対して使いますが、テレビの放送など公共の場で[4]のように用いられることもあります。
 
[4] Saudara Pemirsa, ...
視聴者の皆さん、……
 

■個人名
 
※ 個人名もまた、例文[5]のように人称代名詞の代わりのように文中で用いることがあります。個人名も2人称や3人称、場合によっては1人称の代名詞のごとく用いられます。
 
[5] Budi sudah makan?
ブディはもう食べた?
 
■文の末尾や文中の区切れにおける呼びかけ語
 
※ 文の終わり(あるいは文中で一区切りする部分)で、呼びかけの語がかなり頻繁に用いられます。その場合の呼びかけ語は、例文[6]や[7]のようにBu(← Ibu)や Pak(← Bapak)などの短縮形を使うことが多くあります。
 
[6] Selamat siang, Bu.
こんにちは。
 
[7] Bapak sudah makan, Pak?
もう食事されましたか?
 

※ 個人名についても、名前の一部を取って愛称のように使うことがよくあります。例えばBudi という名前の人に対しては、例文[8a]の文末や例文[8b]の文頭と文末に出てくるように Bud と呼びかけたりする、といった具合です。
 
[8a] Mau ke mana, Bud?
[8b] Bud, Mau ke mana, Bud?
どこへ行くの?