東京外国語大学言語モジュール

Step1 : フォーカスと接辞

 英語で動詞や動詞文を学ぶときは、自動詞・他動詞、能動態・受動態といった概念が導入されますが、フィリピノ語ではフォーカス(焦点)・モード・アスペクト(相)という概念を導入して、動詞や動詞文を学んでいきます。フィリピノ語の動詞は〈接辞+語根 / 語幹〉で形成されています。語根、あるいは語幹がその動詞の意味合いを表すのに対し、接辞はフォーカス・モード・アスペクトを表します。フォーカスとは、英語の態に相当するもので、動詞文において何を主語にするかを決定するものです。英語では動詞文の主語になるのは、動作を行う人、動作の対象となる目的物(生物を含む)です。前者を能動態の文、後者を受動態の文と言います。ところが、フィリピノ語では動作の行為者、動作の対象となる目的物のほかにもさまざまなものが主語になりえます。つまり、英語の受動態に相当する動詞文が、英語よりずっと複雑になっているのです。フィリピノ語で主語になりえるものは、名詞(句)だけであることは1課で学びましたが、動詞文において主語になりえる名詞(句)を、補語と呼ぶことにします。そして数ある補語のうち、どの補語を主語にするのかを決定するのがフォーカスです。