東京外国語大学言語モジュール

Step2 : 可能・不可能の表現

可能・不可能の表現
 
  モンゴル語には、ある動作・状態を実現することが可能か不可能かを表す可能・不可能の表現があります。
 
  モンゴル語の可能・不可能の表現の特徴は、個人の能力など一般的な場合状況が許すかどうかによる場合時間的に完遂できるかどうかによる場合の3つを形のうえで区別することです。日本語ではいずれも「~ことができる」となってしまいますので、和訳に際しては色々と工夫する必要があります。
 
  3種類の可能・不可能の表現はいずれも、以下のような補助動詞形式によって表されます。つまり、3つの補助動詞の違いがそれぞれのニュアンスを表現し分けるというわけです。
 
      自分の能力など一般的な場合
      【語幹】 чад-
 
      状況が許すかどうかによる場合
      【語幹】 бол-
 
      時間的に完遂できるかどうかによる場合
      【語幹】 амж-
 
  これらの形式を使った何らかの平叙文が可能の表現、何らかの否定文が不可能の表現ということになります。いずれも、モダリティの表現のような文末形式ではなく、単に動詞の語幹を拡張するだけの形ですから、実際の文の中ではテンスを現す終止形語尾などを付けなければなりません。
 
      Би Франц хэлээр ярьж чаддаг.  私はフランス語で話すことができます。(一般的な可能)
      Та Орос хэлээр ярьж болно.  あなたはロシア語で話すことができます。(会議などでの使用可能言語について)(状況による可能)
      Би өөрийн тухай ярьж амжсангүй.  私は自分のことについて話すことができませんでした。(話す機会があったことについて)(時間的な可能)
 
      Манай аав машин барьж чадахгүй.  うちの父は車を運転することができません。(一般的な不可能)
      Согтуу хүн машин барьж болдоггүй.  酩酊者は車を運転することができません。(状況による不可能)
      Би машин барьж амжсангүй.  私は車を運転することができませんでした
。(自動車教習所で運転希望者がたくさんいた場合など)(時間的な不可能)
 
  アスペクトの形式をさらに接続したり質問文にすることもできます。
 
      Уншиж чадаж байна уу?  読むことができていますか?(一般的な可能)
      Энд тамхи татаж болох уу?  ここで煙草を吸うことができますか?(状況による可能)
      Сүү авч амжсан уу?  牛乳を買うことができましたか?(時間的な可能)
 
  これまでの例ですでに気付かれたことと思いますが、モンゴル語では、状況が許すかどうかによる可能の表現と以前に学習した許可の表現とは連続しています。つまり、このモジュールでは講学上の便宜として、状況による可能の表現の形のうちの一部を許可の表現として取り上げていたというわけです。
 
      Энд тамхи татаж болох уу?  ここで煙草を吸ってもいいですか?(状況による可能→許可の表現)
      Чи одоо харьж болно.  君はもう帰っても構いません。(同)
      Манайд доллараар тооцоо хийж болно.  うちでは米貨で支払いをしてもかまいません。(同)
 
 
  3つの形式の基本的な使い分けは上記のとおりですが、実際の使用をよく観察すると、一部に微妙な乗り入れの例も見られます。
 
      Би одоо танайд очиж чадахгүй.  私は今おたくに行くことができません。(状況による不可能)
      Би одоо танайд очиж болохгүй.  
 
  このような乗り入れは、可能・不可能の原因をあえて別のものとして述べることによる一種の待遇表現とも考えられます。