東京外国語大学言語モジュール

Step1 : 禁止・許可の表現

禁止・許可の表現
 
  聞き手に対してある動作・状態を実現しないことを求めるのが禁止の表現です。これとは逆に、ある動作・状態を実現することを認めるのが許可の表現です。
 
  禁止・許可の表現は、動詞の希求形の一部と、そのほかのさまざまな文末形式によって表されます。
禁止の表現(1)  希求形によるもの
 
  以前のステップで、広い意味での命令表現を作る3種類の希求形と関連形式を学習しました。
 
      【語幹-目に見えない語尾(ゼロ)
  
      【語幹-аарай
 
      【語幹-аач
 
  モンゴル語には、ある行為の実行を求めるこれら希求形の前に置かれることで、「実行しないこと」の命令・指示・要求を表わすよう、希求形の意味を変える特殊な助詞があり、結果として禁止の表現を作ります。これらは、基本的には希求形の直前に置かれますが、希求形の動詞との結びつきが強い補語がある場合には、その結びつき全体の前に来ることもあります。
 
      битгий  【各希求形】
 
      бүү  【各希求形】
 
  助詞 бүү は、禁止の表現としては硬いスタイルで用いられます(別の用法ではくだけたスタイルでも使われることがあります)。
 
  これらの助詞は、広い意味での命令表現を作る各希求形の使い分けを維持したままで、「実行しないこと」命令・指示・要求、すなわち禁止の表現を作ります。
 
      Чи маргааш битгий ир.  お前は明日来るな。
      Та одоо битгий хоол ид л дээ.  料理はもう召し上がらないでくださいな。
      Энэ эмийг хоолны дараа битгий уугаарай.  この薬は食後には飲まないでください。
      Одоо битгий яваач.  今は行かないでくださいよ。
      ШИЛЭН ДЭЭР БҮҮ ДАР  ガラスの上にもたれないように(商店のショーケースの注意書き)
禁止の表現(2)  そのほかの文末形式によるもの
 
  前の項で見た希求形による表現以外に、以下のような文末形式が禁止の表現として用いられます。
 
 
      【語幹-ж болохгүй.
 
  形からもわかるように、これは本来は動詞 бол- 「なる」による補助動詞形式で、それが否定形になったものです。語幹に接続する は副動詞形で、語幹の種類によっては と交代することは以前に学習したとおりです。
  動詞 бол- 「なる」が「~て」に相当する副動詞形になったうえで、この動詞の非過去の否定形 болохгүй 「ならない」を付けると禁止の表現になるというのは、日本語の「~ては・ならない」とまったく同じ構造です。これが日本語とモンゴル語の「特殊な関係」に由来するものなのかどうかは検討の余地がありますが、少なくとも日本語話者にとって習得しやすい表現であることは確かでしょう。
 
  この形式による禁止の表現は、前の項で見た各希求形による表現とは異なり、相手に直接働きかけるというよりは、禁止されている状態を相手に通知するというニュアンスを持ちます。したがって、客観的・一般的に禁止されていることがらについて述べる場合によく使われます。 
 
      Шалгалтын үед гар утас дуугаргаж болохгүй.  試験のとき携帯電話を鳴らしてはなりません。
      Японд насанд хүрээгүй хүүхдүүд архи ууж болохгүй.  日本では未成年者は酒を飲んではいけません。
 
 
      【語幹-хыг хориглоно.  
 
  語幹に接続する -хыг は、非過去の形動詞形が対格になった形ですから、正書法上の注意は関連するステップを参照してください。
  この形式に含まれる хоригло- は「禁止する」という他動詞で、形動詞形による語幹が名詞節「~するコト」となったうえで対格をとった構文、すなわち、直訳すると「~するコトを禁止する」という表現になります。終止形語尾の部分は、非過去の -на がほぼ固定的に用いられます。
 
  この形式は、主として張り紙や法令といった公的なスタイルにおいて、客観的・一般的な禁止を通告する場合に使われます。
 
      Энд тамхи татахыг хориглоно.  ここでの喫煙を禁止する。(張り紙)
      Охин компани байгуулахыг хориглоно.  子会社の設立を禁止する。(法令)
許可の表現
 
  許可の表現は、前の項で見た禁止の表現の平叙文の形である次の文末形式によって作られます。
 
      【語幹-ж болно.
 
  語幹に接続する が副動詞形で、含まれる動詞が бол- 「なる」であることは、前の項の前半で見た禁止の表現と同じです。
 
  この形式は、相手に対してある行為の実行を許可する場合に幅広く使われます。
 
      Чи одоо харьж болно.  君はもう帰っても構いません。
      Манайд доллараар тооцоо хийж болно.  うちでは米貨で支払いをしてもかまいません。
禁止・許可の質問文
 
  禁止・許可の表現は、形式に含まれる動詞 бол- の形を応用して質問文にすることができます。この場合、形式に含まれる動詞の形 болно/болохгүй を単独で使うことで応答します。
 
      ― Маргааш танайд очиж болох уу?  あしたおたくに行ってもよろしいですか?
      ― Болноかまいません。
      ― Болохгүйいけません。