東京外国語大学言語モジュール

Step1 : 同位成分の接続(1) 並列

文の同位成分
 
  文の中で、あるほかの成分と同じ関係にある成分を同位成分と呼びます。同じ関係にあるとは、格が同じであるなど、述語に対して同じ関係を持つという意味です。次の例ではそれぞれ、主語・補語・状況語が同じ関係にあり述語を共有しています。
 
      ドルジとバトが私のうちに来ました。(主語)
      私は昨日、ドルジやバトを家に呼びました。(補語)
      昨日と今日、たくさんの雪が降りました。(状況語)
 
  このモジュールでは、モンゴル語の性質に鑑み、述語動詞の同位成分についてはあとで見る重文として扱います。
 
  同位成分の接続には、並列(『AとB』など)、例示(『AやB』」など)、累加(『AだけでなくB』など)、選択(『AまたはB』など)といったさまざまな関係があります。
  このステップでは、同位成分の接続のうちの並列の表現を学習します。
 
  並列の表現は、該当する文の成分をすべて挙げる場合に用いられる表現で、これを全部列挙の表現と呼ぶこともあります。
  モンゴル語の同位成分の並列には、数詞を使う方法と接続詞を使う方法とがあります。
  以下の説明では、同位成分をA・B・C…で示します。
数詞を使う方法
 
  もっとも一般的なのは、同位成分をすべて主格で並べ、最後に同位成分の数を表わす基数詞を置く方法です。
 
      【A:主格  【B:主格   【基数詞】
 
  この数詞はもっぱら並列の表現形式の一部として使われるものですから、日本語にするときには数詞を無視したうえで適宜工夫する必要があります。
  この用法の基数詞は算用数字ではなく単語の綴りで表記します。また、各成分の間にコンマを置く場合もあります。
 
      өчигдөр өнөөдөр хоёр  昨日と今日
      гурил, сметана, сахар гурав  小麦粉・サワークリーム・砂糖
      аав, ээж, ах, эгч дөрөв  父、母、兄及び姉
 
  格をとる場合は、最後の基数詞にだけ格語尾が接続します。
 
      Өвөө эмээ хоёрыг хөдөөнөөс дуудав.  祖父と祖母をいなかから呼びました。
      Уянга, Мэгий, Ундраа гурваас захиа ирлээ.  オヤンガ、メギー、オンドラーから手紙が来ました。
接続詞を使う方法
 
  接続詞によって主としてふたつの同位成分を結び付ける次のような表現があります。接続詞は数詞とは違って同位成分の間に置かれます。
 
      【A:主格  болон  【B:さまざまな格
      【A:主格  ба  【B:さまざまな格
 
  これらの形式は、数詞による表現よりも硬いスタイルで用いられ、多くの場合、日本語の「~及び~」に近い語感を持ちます。とくに、接続詞 ба を使った表現は、硬い文書などきわめて限られたスタイルで使われますので、あまり単純な文や平易な語彙を用いた表現の中では文体的におかしくなります。
  以下の例は接続詞 болон によるもので代表させて示します。   
 
      Япон болон бусад орон  日本とその他の国
      Ерөнхийлөгч болон Ерөнхий сайд  大統領及び首相
 
  格をとる場合は、多くの場合は最後の成分にだけ格語尾を接続しますが、両方に付けることもできます。
 
      Би өдөр супермаркет   болон хүнсний захад очив.  私は昼間、スーパーと食料品市場に行きました。
      Би өдөр супермаркетад болон хүнсний захад очив.  
      Гадаад хэргийн сайд Франц   болон Германаар айлчлав.  外務大臣はフランス及びドイツを訪問しました。
      Гадаад хэргийн сайд Францаар болон Германаар айлчлав. 
 
  同位成分がふたつとも名詞句や複合語で、構成要素の一部を共有する場合には、はじめの成分(A)に含まれる共通要素を省略することがあります。
 
      Манай ах Япон       болон Англи хэлээр ярина.  うちの兄は日本語と英語を話します。
      Бид нар дотоодын      болон гадаадын олон төлөөлөгчөөс ярилцлага авав.  私たちは、国内及び外国の多くの代表にインタビューしました。
 
  第二文の前半の成分の属格は、「属格の名詞+名詞」という名詞句の後半の名詞(奪格)が単に省略されただけであることに注意しましょう。
コピュラ文の述語の補語の場合
 
  コピュラ文のうちの指定文、すなわち「AイコールB」のBが複数の場合は、このステップで学習する同位成分の並列ということになりますので、上で学習したふたつの方法のいずれかで表現します。
 
      Миний мэргэжил хэл шинжлэл, авиа зүй хоёр.  私の専門は言語学と音声学です。
      Миний мэргэжил хэл шинжлэл болон авиа зүй.  
 
  これに対して、措定文、すなわち「Aの属性はBである」という文のBにあたる部分が複数ある場合は、コピュラ文の述語そのものが複数存在する重文になりますので、このステップで学習した形式は使えません。
 
      Дамбаа компаний ажилтан, оройн ангийн оюутан хоёр.  (×)「ダムバーは会社員で夜学の学生です。」
      Дамбаа компаний ажилтан болон оройн ангийн оюутан.  (×)同
 
  このことは、Bの部分が複数ある場合に「と」を使うか「で」を使うかが指定文と措定文とで異なる日本語でも同じです。
 
      【池畑さんの仕事】は、【歌手】【俳優】です。(指定文)
      【池畑さんの仕事】は、【歌手】【俳優】です。(×)
      【池畑さん】は、【歌手】【俳優】です。(措定文)
      【池畑さん】は、【歌手】【俳優】です。(×)