東京外国語大学言語モジュール

Step3 : 重複法による表現

重複法
 
  同じ語を重ねることによって、一定の文法的意味を表す手段を一般に重複法(Reduplication)と呼びますが、モンゴル語には、これによるいくつかの表現があります。
同位成分の存在を示す表現
 
  モンゴル語では、ある文の成分Aの頭の子音を子音 m に代えて重複させることによって、同位成分であるBやCの存在を暗示したり(『Aなど』)、A・B・C…という同位成分のうちのAで代表させて述べていることを表す(『Aか何か』)ことができます。これらのニュアンスは文脈によって決まります。
  この表現はくだけたスタイルとなり、母語話者の口からは極めて頻繁に聞かれますが、規範的でないという意識は母語話者自身も比較的強く持っており、外国人が中途半端に使うと奇異な感じを与え嘲笑の対象になることがあります。あくまでも相手が使った場合に意味がわかればいいのであって、学習途上の外国人がことさらに使ってみせる必要はないと言えるでしょう。また、口語専用の表現であり、インタビュー記事などで発言をそのまま紹介するといった場合を除けば文字で書かれることは原則としてありません。したがって、以下の例は、あくまでも便宜上文字に起こしたもの(このように書くことは実際にはない)という意味で [    ]内に表記しておきます。
 
      【A:主格  【m-A:さまざまな格
 
      [гурил мурил]  小麦粉など~小麦粉か何か
      [зурагт мурагт]  テレビなど~テレビか何か
 
  Aが母音で始まるときは、子音 m をそのまま頭に付けます。
 
      [өнөөдөр мөнөөдөр]  今日かいつか
      [аав маав]  お父さんなど~お父さんか誰か
 
  Aが子音 m で始まるときは、子音 s に変わる場合と z に変わる場合があり、話者によってゆれが見られます。
 
      [мах сах]  肉など~肉か何か
      [Монгол зонгол]  モンゴルなど~モンゴルかどこか
 
  格をとる場合は、重複された2番目の要素にだけ格語尾が接続します。
 
      [Бензин мензиний үнэ]  ガソリンなどの値段
      [Гэрэл мэрлээс асуу.]  ゲレルなど/ゲレルか誰かに聞きなさい。
 
  形容詞などが名詞を修飾した名詞句で、同じ修飾部分によって修飾される別の名詞を同位成分として示す場合には、被修飾部分だけを重複させます。
 
      [хар өмд мөмд]  黒いズボンなど~黒いズボンか何か
 
  一方、修飾部分の形容詞を同位成分として示す場合には、形容詞の部分だけを重複させます。
 
      [хар мар өмд]  黒などのズボン~黒か何かのズボン
複数・多様性・個別性を表す表現
 
  ある文の成分Aをそのまま繰り返すと、その成分Aが複数であることや、「さまざまな~」という多様性、「それぞれの~」という個別性を表すことができます。どの意味で使われているかは文脈によって判断します。
 
      【A:主格  【A:さまざまな格
 
      гэр гэртээ  それぞれの家(個別性)
      орон орны  төлөөлөгч  さまざまな国の代表(多様性)
      хэн хэнтэй  誰と誰と(複数)
 
  ただし、形容詞によって名詞が修飾されている場合は、その名詞ではなく、修飾部分を重複させます。
 
      【形容詞】  【形容詞】  【A:さまざまな格
 
      том том зочид буудал  大きなホテル(複数)
      тус тус хүн  それぞれの人(個別性)
 
  これは、形容詞的に使われる疑問代名詞の場合でも同じです。ただし、序数詞に対応する хэддүгээрхэд хэддүгээр という形になります。
 
      ямар ямар ном  どんな本(複数/多様性)
 
 
  Aが数詞の場合は、名詞や形容詞の場合とはやや異なり、意味としてはもっぱら「~ずつ」という個別性を表します。ただし、この用法は、単語としての数詞を持つ数の場合がほとんどで、「21」や「1466」など、複数の数詞の組み合わせによって表される数の場合には使いにくくなります。
  このように使われる数詞のことを分配数詞と呼ぶ場合もありますが、そのような特別な数詞があるわけではなく、あくまでも基数詞の使い方のひとつですし、「分配」というのも一部の意味でしかありません。
 
      数詞:主格  【同じ数詞:さまざまな格 
 
  この場合、その数詞が人を指しているのか事物を指しているのかを文脈から判断する必要があります。
 
      хоёр хоёроор  ふたりずつで(個別性)
      тав тавыг  五つずつを(個別性)
 
  名詞を修飾している数詞の場合は、形容詞と同じように修飾部分である数詞だけを重複させますが、繰り返されたふたつ目の数詞だけがН交代語幹になります。この場合も、意味としてはもっぱら、「~ずつのA」という個別性を表します。
 
      【数詞】  【同じ数詞のН交代語幹  【A:さまざまな格
 
      гурав гурван чихрийг  3個ずつのアメ玉を(個別性)
      хорь хорин эгнээгээр  20列ずつで(個別性)
 
  なお、数詞によって修飾される名詞が具体的なものではなく単位の場合は、日本語訳が「~Aずつ」というように逆になります。
 
      мянга мянган төгрөгөөр  1000トゥグルグずつで(個別性)