格語尾のあとに置かれる派生接辞
これまで学習してきたように、モンゴル語の名詞類が文の中にあるとき、それらは必ず次のような構造をしています。
語幹
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(複数語尾)
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格語尾
(述語との関係)
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再帰語尾
(主語との関係)
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語基
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派生接辞
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ここで、次の形を見てみましょう。
зохиолчдынхоо (自分と関係のある)作家たちの
захиалгуудаас (自分と関係のない)複数の注文から
この名詞の形をさきの表に当てはめてみると次のようになります。
語幹
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複数語尾
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格語尾
(述語との関係)
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再帰語尾
(主語との関係)
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語基
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派生接辞
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зохь
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-оо-
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-л-
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-ч-
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-д-
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-ын-
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-хоо
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захь
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-аа-
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-лга-
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-ууд-
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-аас
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このように、語彙的な意味を変える役割を持った派生接辞は、文法的な意味を示すための格語尾と再帰語尾が接続する以前の段階で接続され、新たな語幹を派生します。ところが、モンゴル語には、格語尾までが接続された段階になって初めて登場し、新たな語彙的な意味を派生する特殊な接辞があります。ここでは、そのような派生接辞を学習します。
関係者・所有物を表す名詞
次の接辞は、属格形の名詞類に接続し、「そのものに所属・関係する人間・事物」や「そのものが所有する事物」という意味を持った名詞を派生します。
【名詞:属格-х】
Тунгаагийнх トンガーのもの
манай ангийнх うちのクラスの人/もの
нүүрнийх 顔に関係するもの=フェイス用(化粧品など)
人称代名詞がこの接辞をとった場合は、英語の所有代名詞のような意味になります。
минийх 私のもの
тэднийх 彼らのもの
хэнийх 誰のもの
この派生接辞はいったん格語尾をとった形に接続されますが、意味的には新たな語幹が作られたことになりますので、振り出しに戻り、文の中では再び別の格語尾をとることになります。
Тунгаагийнхыг トンガーのものを
манай ангийнхтай うちのクラスの人/ものと一緒に
нүүрнийхээр 顔に関係するもの=フェイス用(化粧品など)によって
所属先を表す名詞
次の接辞は、人を表す名詞及び人称代名詞の属格形に接続し、「その人が所属する機関・世帯」という意味を持った名詞を派生します。日本語では、「~のところ」に近い意味になりますが、会社や学校といった所属先の機関を表しているのか世帯を表しているのかは文脈で判断しなければなりません。また、上で見た関係者・所有物を表す名詞とも同じ形になります。
Баярмаагийнх バヤルマーのところ
ахынх 兄のところ
тэднийх 彼らのところ
1人称・2人称の人称代名詞がこの接辞をとる場合は、манай 及び танай という排除形を使用します。排除形以外の形に接続した場合は、前の項で見た関係者・所有物の意味になってしまいますので注意しましょう。
манайх 我々のところ=ウチ
биднийх (×=我々のもの)
минийх (×=私のもの)
танайх あなたたちのところ=おたく
та нарынх (×=あなたたちのもの)
чинийх (×=君のもの)
таных (×=あなたのもの)
この接辞も新たな語幹を派生するものですから、実際の文の中では再び格語尾をとることができます。
Би ахынхаас шууд сургуульд очсон. 私は兄のところから直接学校に行きました。
Одоо манайх руу очих уу? 今度はウチに行きますか?
ただし、次の点に注意が必要です。
この派生接辞で作られた名詞がさらに属格形になることはありません。
Баярмаагийнхын машин (×)「バヤルマーのところの自動車」
ахынхын хүүхдүүд (×)「兄のところの子どもたち」
これらの意味は、ややニュアンスが変わってしまいますが、元の語幹の属格など他の手段で表すほかありません。
Баярмаагийн машин バヤルマーの自動車
ахын хүүхдүүд 兄の子どもたち
この派生接辞は与位格語尾が接続すると脱落します。
Мөнхөөгийнд ムンフーのところに
Мөнхөөгийнхэд (×)
なお、次のふたつの代名詞によるこの形はきわめてよく使われますので、そのまま覚えてしまうと便利です。
манайд 我々のところに=ウチに
танайд あなたたちのところに=おたくに
このほか、共同格語尾と方向格語尾が接続するときにも同じように脱落することがあります。
構成員を表す名詞
次の接辞は、属格形の名詞類に接続し、「そのものに所属する構成員」という意味を持った集合名詞を派生します。最初に見た関係者・所有物を表す名詞とは違い、この接辞で作られる名詞は必ず人間を表し、数も複数になります。歴史的には、この接辞は -х の複数の形です。
【名詞:属格-хан】
манай ангийнхан ウチのクラスの構成員=ウチのクラスメイト
гадаадынхан 外国の構成員=外国人
Улаанбаатарынхан ウランバートルの構成員=ウランバートル市民
байрныхан アパートの構成員=アパートの住人
人称代名詞がこの接辞をとるときは、多くの場合、家族を表します。
тэднийхэн 彼らの家族/彼らの(会社・学校などの)構成員
ただし、1人称・2人称の人称代名詞は、манай 及び танай という排除形を使用します。
манайхан ウチの家族/ウチの(会社・学校などの)構成員
биднийхэн (×)
минийхэн (×)
танайхан おたくの家族/おたくの(会社・学校などの)構成員
та нарынхан (×)
чинийхэн (×)
таныхан (×)
この派生接辞から作られた新たな語幹は、文中ですべての格語尾をとることができます。発音と正書法の点では、母音(字)の脱落に注意しましょう。
ангийнхны クラスの構成員=クラスメイトの
өрөөнийхэнтэй 部屋の構成員=ルームメイトと一緒に