東京外国語大学言語モジュール

Step2 : モダリティ(10) 懸念

懸念の表現
 
  ある事態の成立を望まないという話し手の気持ちを表すのが懸念の表現です。
 
  懸念の表現は、動詞の希求形の一部とそのほかの文末形式によって表されます。
希求形によるもの
 
  希求形のうち、懸念の表現を作るものは次のとおりです。これらの希求形をとる主語は2人称と3人称です。→【発音と正書法上の注意】
 
      【語幹-уузай
 
  語尾 -уузайとった希求形は、語幹が表す事態が成立しては困るという話し手の気持ちを表します。日本語には直接対応する形がないのでニュアンスをつかむまでは難しいのですが、人称別の使われ方を示すと次のようになります。
 
  2人称の主語に対してこの形を使った場合は、「~しないように」という禁止の命令に近いニュアンスとなります。
 
      Чи маргааш хожигдуузай!  君、明日遅刻しないように!
      Чи маргааш битгий хожигдоорой!
      Та архи хэтрүүлж уугуузай.  お酒を過ごされないように。
      Та битгий архи хэтрүүлж уугаарай.  
 
  一方、主語が3人称のときは「~しないといいのだが」という話し手の懸念や危惧の気持ちを表します。このとき、懸念が実質的には2人称に対して向けられているというニュアンスを感じる場合もあります。
 
      Гал тогооны ус алдуузай.  台所の水が漏れないといいのですが。(2人称に対して暗に処理を要求しているニュアンス)。
      Гадаа тавьсан мах хөлдүүзэй.  外に置いた肉が凍らないといいのですが。(同) 
そのほかの文末形式によるもの
 
  前の項で見た希求形による表現以外に、以下の文末形式が懸念の表現として用いられます。
 
      【語幹-х вий
 
  語幹に接続する は非過去の形動詞形ですから、正書法上の注意は関係するステップを参照してください。
  多くの場合、この形式のあとには終助詞 дээ が置かれるほか、語幹には完成アスペクトの補助語幹 -ч- が接続します。したがって、もっともよく使われる実際の形として次のような模式も挙げておきます。
 
      【語幹-чих вий дээ 
 
 
  この形は、「~しないといいのだが」という話し手の懸念や危惧の気持ちを表しますが、2人称に向けられた場合に、文脈によって禁止の命令に似たニュアンスを帯びる点はさきの希求形と同じです。
 
      Өнөө орой цас орох вий дээ.  今晩雪が降らないといいのですが。
      Чи цагаас хожигдох вий.  君、遅刻しないように。
      Чи битгий цагаас хожигдоорой.  
【発音と正書法上の注意】
 
  語尾 -уузай が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
 
  短母音字で終わる語幹の場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
 
     語幹 чана- 「煮る・ゆでる」: а脱落-уузай чануузай
     語幹 дага- 「従う」 : а脱落-уузай дагуузай
 
  яё で終わっている語幹の場合は、それらを残したうえで、-уузай の形を -узай とします。
 
     語幹 хая- 「捨てる」: +-узай хаяузай
     語幹 оё- 「縫う」 : -узай оёузай
 
  長母音または二重母音で終わる語幹の場合は、子音 g がつなぎとして現れますので、綴りの上でもこれを表記します。
 
     語幹 асаа- 「点火する」: г挿入-уузай асаагуузай
     語幹 ороо- 「包む」 : г挿入-уузай ороогуузай
 
  ь で終わる語幹の場合は、-уузай を接続したときにできる綴り ьуузай の ьу の部分を母音字 и に変えて иузай にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иу という二重母音になるわけではありません。
 
     語幹 тавь- 「置く」 -уузай тавьуузай тавиузай
     語幹 соль- 「換える」-уузай сольуузай солиузай
 
  なお、語尾 -уузай は母音で始まる語尾ですから、子音字で終わる語幹にこれを接続するときには、正書法一般のいわゆる脱落母音の規則とその例外にも十分注意してください。