動詞の否定形(1)
モンゴル語では、動詞の終止形の形がテンスを表すことをこれまでに学習しました。しかし、終止形には直接の否定形にあたる形式が存在しません。そこで、現代のモンゴル語では、本来は終止形とは無関係の次のような形式を、テンスを表す終止形の否定の形として使用します。あとのステップで詳しく学習しますが、これらの形は本来は動詞の形動詞形の否定の形で、これらが終止形の否定にいわば流用されているというわけです。
● 過去の否定形
過去の否定形には次の2種類があります。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-аагүй】
【語幹-сангүй】
過去の否定形には2種類しかありませんので、平叙文では3種類の語尾で表現しわけていた意味の区別は否定文では中和され、別の基準による2種類の分類に再編成されていることになります。
否定の場合の使い分けは次のとおりです。
-аагүй は、単純な過去の否定を表します。
Энхбаяр ирээгүй. エンフバヤルは来ませんでした。
Өчигдөр бороо ороогүй. 昨日は雨が降りませんでした。
一方、-сангүй は、「起こるはずの出来事が最終的に起こらなかった」という価値判断を含んだ否定を表します。
Баясгалан ирсэнгүй. バヤスガランは(来るはずだったのに結局)来ませんでした。
Өчигдөр бороо орсонгүй. 昨日は雨が(降るはずだったのに結局)降りませんでした。
● 非過去の否定形
非過去の否定形は次のとおりです。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-хгүй】
Дэлгэрмөрөн ирэхгүй. デルゲルムルンは来ません。
Энд жорлон байхгүй. ここにトイレはありません。
● 否定質問文
否定の質問文は、質問文を作る原理に則って各否定形に質問の助詞を付けることで表されます。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-аагүй】 юү(вэ)?
【語幹-сангүй】 юү(вэ)?
【語幹-хгүй】 юү(вэ)?
Болортуяа ирээгүй юү? ボロルトヤーは来ませんでしたか?
Өчигдөр бороо орсонгүй юү? 昨日は雨が(降るはずだったのに)降りませんでしたか?
Тэнд номын сан байхгүй юү? あそこに図書館はありませんか?
非過去の否定形の質問文「~しませんか」は、日本語と同じように、多くの場合、勧誘の表現としても用いられます。
Та хамт явахгүй юү? 一緒に行きませんか?
【発音と正書法上の注意】
● 否定形 -аагүй が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
短母音字で終わる語幹の場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
語幹 сана- 「思う」: а脱落+-аагүй → санаагүй
語幹 дага- 「従う」 : а脱落+-аагүй → дагаагүй
я・ё で終わっている語幹の場合は、それらを残したうえで、-аагүй の形を -агүй とします
語幹 хая- 「捨てる」: +-агүй → хаяагүй
語幹 оё- 「縫う」 : +-огүй → оёогүй
長母音または二重母音で終わる語幹の場合は、子音 g がつなぎとして現れますので、綴りの上でもこれを表記します。
語幹 асуу- 「たずねる」: г挿入+-аагүй → асуугаагүй
語幹 ороо- 「包む」 : г挿入+-оогүй → ороогоогүй
ь で終わる語幹の場合は、-аагүй を接続したときにできる綴り ьаагүй の ьа の部分を母音字 и に変えて иагүй にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иа という二重母音になるわけではありません。
語幹 тавь- 「置く」 +-аагүй → тавьаагүй → тавиагүй
語幹 соль- 「換える」+-оогүй → сольоогүй → солиогүй
なお、否定形 -аагүй は母音で始まる語尾ですから、子音字で終わる語幹にこれを接続するときには、正書法一般のいわゆる脱落母音の規則とその例外にも十分注意してください。
● 否定形 -хгүй が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
子音字で終わる場合は、それら語尾の直前に必ず短母音字を挟みます。
語幹 унш- 「読む」+-хгүй → уншихгүй
語幹 ид- 「食べる」+-хгүй → идэхгүй
ь で終わる場合は、語幹末の ь を и に変えます。
語幹 урь- 「招く」+-хгүй → урихгүй
語幹 зохь- 「合う」+-хгүй → зохихгүй
● 否定形のあとの質問の助詞は -гүй の部分に母音調和して юү となるのが原則ですが、実際の発音は動詞の語幹に母音調和することが多く、表記もそれに合わせて юу となる場合があります。