東京外国語大学言語モジュール

Step1 : 基数詞と数の表現(1)

基数詞とその種類
 
  モンゴル語の基数詞は、基本的には名詞の一種ですが、名詞類にはない機能を持つほか、名詞類には接続しない独自の語尾をとり、さまざまな種類の副次的な数詞を作ります。
 
  モンゴル語で表現される整数には、その数が基数詞という単語として存在しているものと、単独の基数詞がなく、ほかの基数詞を組み合わせて表現するものとがあります。
 
  モンゴル語に単語として存在する基数詞は次のとおりです。単語で表現できるものも含め、数の表現全体については次の項で改めて見ていきますので、ここではまず、単語としての形だけを覚えてください。
 
  なお、このステップの内容はすべてことばとしての表現法の説明であり、実際の表記では必要に応じて算用数字が使われますので、両者を混同しないようにしてください。→【発音と正書法上の注意】
 
語幹
Н交代語幹
0
тэг
なし
ноль
なし
1
нэг
нэгэн
2
хоёр
なし
3
гурав
гурван
4
дөрөв
дөрвөн
5
тав
таван
6
зургаа
зургаан
7
долоо
долоон
8
найм
найман
9
ес
есөн
10
арав
арван
20
хорь
хорин
30
гуч
гучин
40
дөч
дөчин
50
тавь
тавин
60
жар
жаран
70
дал
далан
80
ная
наян
90
ер
ерэн
100
зуу
зуун
1000
мянга
мянган
100万
сая
なし
10億
тэрбум
なし
миллиард
なし
 
  0と10億にはふたつの語があります。このうち нольмиллиард はロシア語からの借用語ですが、どちらもふつうに用いられます。ここでは、煩雑を避けるために、10億は тэрбум による言い方に統一示します。
0~99の表現
 
  0~10と、10の2倍~9倍の数は、単語としての基数詞が存在しますので、前の項で見たものをそのまま使用して表現します。
 
  一方、10の2倍~9倍の間の数は、基数詞が単語として存在しませんので、存在する基数詞を大きなものから組み合わせた複合語で表現します。このとき、十の位の基数詞は Н交代語幹になります。
 
十の位
 
一の位
арван
нэг
хорин
хоёр
гучин
гурав
дөчин
дөрөв
тавин
тав
жаран
зургаа
далан
долоо
наян
найм
ерэн
ес
 
      46 = дөчин зургаа                   
      78 = далан найм                   
100~999の表現
 
  100~999までの数は、基数詞が存在する зуу 「百」を単位とし、その単位がいくつあるかを1桁の基数詞で述べたうえで、下2桁の数(=99以下の部分)があればそれを付けます。たとえば、300及び596という数は次のように区切って表現します。
 
  
3
0
0
зуу
 
 
                            300 =【3×зуу】
  
  このとき、単位がいくつあるかを示す基数詞は Н交代語幹になります。
 
      300 = гурван зуу
 
  ただし、хоёр にはН交代語幹がないのでつねにそのままの形となります
 
      200 = хоёр   зуу
 
  また、ちょうど100の場合は、単位がいくつあるかを示す数詞そのものが不要です。とくに強調する場合に нэг が現れることもありますが、Н交代語幹への交代は行ないません。
 
      100 = зуу  ~  нэг   зуу 
 
  下2桁の数(=99以下の部分)があるときは、単位である зуу をН交代語幹にしたうえで接続します。
 
5
9
6
зуу
 
 
                             596 =【5×зуу】+【96】
 
      596 = таван зуун ерэн зургаа
基数詞の名詞的な用法
 
  モンゴル語の基数詞はもともと名詞の一種なので、文の中で名詞的に用いることができます。このとき、名詞類と同様に格語尾をとって格変化をしますが、名詞とは違い、すべての格でН交代語幹が現れないという大きな特徴があります。
 
      дөрвөөс хоёрыг хас-  4から2を引く
      дөрвнөөс  (×)
      гучин тавыг долоод хуваа-  35を7で割る
      долоонд  (×)
基数詞の形容詞的な用法
 
  基数詞は、名詞の前に置かれてその名詞の数を表す修飾語成分になることができます。修飾語成分としての基数詞は、修飾される名詞の数を表します。「~枚」・「~個」といった類別詞はあまり使用されないので、日本語にするときにはそれらを適宜付け加える必要があります。
 
  名詞を修飾するとき、基数詞は Н交代語幹の形になります。
 
      таван хүн  5人の人間
      жаран морь  60頭の馬
 
  ただし、хоёр にはН交代語幹がないのでつねにそのままの形です。
  
      хоёр   ном  2冊の本
      гучин хоёр   хонь  32匹の羊
 
  нэг も基本的にはそのままの形ですが、81や721など3桁までの数の一部である場合に限り、Н交代語幹となります。
 
      нэг   хүүхэд  ひとりの子ども
      гучин нэгэн хүүхэд  31人の子ども
      дөрвөн зуун арван нэгэн хүүхэд  411人の子ども
 
  ただし、3桁の数で十の位がない場合、そのままの形に据え置かれることがあります。
 
      найман зуун нэг   хүүхэд  801人の子ども
      ~ найман зуун нэгэн хүүхэд
基数詞の副詞的な用法
 
  基数詞は、そのままの形で述語を補足する状況語成分になります。状況語成分としての基数詞は、主として述語の動作が行なわれる回数を表します。
 
 
      тав унш-  5回読む
      арав хий-  10回行なう
 
  ただし、回数を表す別の表現が存在しますので、この用法はそれほど多用されません。
人称代名詞と基数詞の組み合わせによる表現
 
  人称代名詞の一部と基数詞を組み合わせ、複数の人間を表す表現があります。
  組み合わされる基数詞は実際の人数に応じたものとなりますが、この表現が使われるのは多くの場合最大で тав までで、6人以上の場合には一般の複数表現を用いるのがふつうです。
 
人称代名詞
 
意味
бид
хоёр
гурав
дөрөв
тав
1人称・複数
та
2人称・複数
энэ
3人称(近称)・複数
тэр
3人称(非近称)・複数
 
  このように、表現される意味はいずれも複数ですが、使用する人称代名詞は単数・複数が不規則なので、これらの形をそのまま覚えるようにしてください。
  なお、この用法の基数詞は、算用数字ではなく単語としての数字の綴りをそのまま使用する傾向があります。
【発音と正書法上の注意】
 
  基数詞は、実際のテクストでは多くの場合算用数字で表記されますが、一桁の数の場合には単語としての綴りで表記する場合もあります。
 
  算用数字で表記する場合、Н交代語幹の末尾のНや格語尾の部分を次のように表す方法があります。これは、算用数字を一種の省略表記と見なし、大文字による省略表記に語尾を付ける方法を準用したものです。
 
      【算用数字
 
      【算用数字-(語尾の綴り)
 
      13-н хүүхэд = арван гурван хүүхэд  13人の子ども
      38-аас = гучин наймаас  38から
      БНМАУ-аас = Бүгд Найрамлах Монгол Ард Улсаас  モンゴル人民共和国から
 
  ただし、Н交代語幹の末尾のНは表記そのものを省略することも少なくありません。この場合、名詞を修飾しているかどうかに注目したうえで、Н交代語幹として取り扱う必要があります。
 
      8   хонь = найман хонь  8匹の羊