東京外国語大学言語モジュール

Step4 : 疑問代名詞の特殊な用法

疑問代名詞の譲歩表現
 
  モンゴル語では、疑問代名詞の直後に助詞 ч を置くことによって、「その疑問代名詞が指すどんなものであっても」という譲歩の意味を表すことができます。
 
      【疑問代名詞】  ч
 
  たとえば、「人間」の疑問代名詞 хэн が単独である場合は、「人間」をたずねる「誰」を意味しますが、これに助詞 ч を接続した хэн ч という形は、「誰であっても」という譲歩の意味、すなわち「すべての人間」・「任意の人間」を意味します。
 
      Хэн ч иднэ.  誰でも食べます。
 
  この文は、「誰であっても食べる」、すなわち「すべての人間/任意の人間が食べる」という意味になります。
 
  一方、否定文の場合は次のようになります。
 
      Өчигдөр хэн ч ирээгүй.  昨日は誰も来ませんでした。 
 
  否定文の場合も、疑問代名詞+助詞 ч の部分は「誰であっても」という譲歩を表しますが、この場合の述語はそれが「来なかった」という否定の形になっていますので、この文は結局、「昨日は誰も来ませんでした」という全否定を意味することになります。
 
  上の例は、いずれも疑問代名詞が主格になっている場合ですが、疑問代名詞は、主格以外のさまざまな格変化をした状態でも助詞 ч を後続して「すべての~」・「任意の~」を表すことができます。
 
      Би цуглуулсан маркаа юугаар ч солихгүй.  私は集めた切手を何とも交換しません。
 
  この例は、疑問代名詞 юу 「何」が、この場合は交換物を表す造格の形をとったうえで助詞 ч を後続しているものです。
 
  疑問代名詞 аль 「どれ」は、選択してたずねるという性質上、選択元となる集合を示す必要があります。このとき、選択元が3人称の場合は人称関係助詞をとります。助詞 ч は人称関係助詞のあとという順序になりますので注意してください。
 
      Надад аль нь ч таалагдсангүй.  私には(その)どちらも気に入りませんでした。
      аль ч нь  (×)
 
  ただし、選択元が文の中で明確に表現されていても人称関係助詞がそのまま置かれることもあります。
 
      Өнөр тэр хоёр сургуулийн алинд нь ч орсонгүй.  ウヌルはあのふたつの学校のうちのどちらにも入りませんでした。
 
  事物をたずねる疑問代名詞 юу 「何」は、直接目的語として対格をとる場合でも対格語尾を省略することがありますが、助詞 ч を後続するときにはその省略が顕著になります。たとえば、次の文に含まれている юу は、対格語尾を省略したうえで助詞 ч が後続しているものです。
 
      Би одоо юу ч уухгүй.  私はもう何も飲みません。
疑問形容詞用法の場合
 
  疑問代名詞の中には、名詞の直前に置かれることで、その名詞を修飾する疑問形容詞として用いられるものがありますが、このときも同じように助詞 ч によって譲歩の表現を作ることができます。ただし、要素の配列は、疑問代名詞の直後に助詞 ч を置いたうえで被修飾名詞という順序になります。これは、日本語とは微妙に異なるところですから十分に注意してください。
 
      【疑問代名詞】  ч  【被修飾名詞】
 
      Үүний тухай ямар ч хүн мэднэ.   これについてはどんな人でも知っています。
      ямар хүн ч  (×)
 
  疑問形容詞としての用法のときに語幹が交代するものは、名詞の前に助詞 ч があっても交代語幹が現れます。
 
      Надад хэдэн ч төгрөг байхгүй.  私にはいくらのお金もありません。
      хэд ч төгрөг  (×)
疑問動詞・疑問副詞の場合
 
  モンゴル語には、疑問動詞及び疑問副詞と呼ばれる一連の語があり、質問文の作り方などの点で疑問代名詞と同じふるまいを見せることを学習しましたが、疑問動詞と疑問副詞は、譲歩の表現においても疑問代名詞と同じ作り方ができます。
 
      【疑問動詞】  ч
      【疑問副詞】  ч
 
      Сайн хүмүүс дэлхийн хаана ч бий.  よい人々は世界のどこにでもいます。
      Ган-Эрдэнэ энэ зуны амралтаар хаашаа ч яваагүй.  ガンエルデネはこの夏休みにどこへも行きませんでした。
 
  疑問副詞 хэзээ の譲歩の形が否定文の中にある場合は、「いつでも」という本来の意味から発展し、「決して(~ない)」という否定を強める副詞的表現として用いられます。
 
      Тэр дэлгүүрт хэзээ ч очихгүй.  あの店には決して行きません。
 
  疑問動詞が質問文以外の述語になることはありませんが、疑問動詞の否定形が譲歩の表現をとると全否定の否定文になります。このとき、助詞 ч は否定形を分割した内部に置かれ、動詞の否定形に含まれる -гүй という部分はその語源である үгүй という単語の姿に戻ります。
 
      яагаагүй → яагаа ч үгүй  どうもしなかった
      яахгүй → яах ч үгүй  どうもしない