東京外国語大学言語モジュール

Step1 : 名詞類の形と変化

文の中にある名詞類のカテゴリー
 
  モンゴル語の名詞及び代名詞は、文の中で基本的に同じような活用をしますので、このモジュールでは、これらをまとめて名詞類と呼ぶことにします。名詞と代名詞のほか、数詞(基数詞)も一部名詞類に準じた活用をすることがあります。
 
  モンゴル語の名詞類は、文の中にあるとき、(1)述語に対してどのような関係にあるか、(2)そのものが主語にとってどのような関係にあるか、というふたつの情報を示す形をとります。つまり、モンゴル語の名詞類が文の中で使われるためには、辞書に載っている形そのままではなく、(1)と(2)のふたつの情報がどのような状態であるかによって形が変わってくるのです。
 
  文中にある名詞類が「述語とどのような関係にあるか」を示す形をと呼びます。モンゴル語の格は、語幹に接続する格語尾の働きによって表されます。
 
  一方、文中にある名詞類が「主語とどのような関係にあるか」を示す形を再帰と呼びます。詳しくはあとのステップで学習しますが、「主語との関係」とは、その名詞類が主語の所有するものであったり、主語に関係があるものであったりすることを意味します。ただし、あくまでも主語との関係である以上、その名詞類自身が主語である場合は無関係となります。モンゴル語の再帰は、語幹に接続する再帰語尾の働きによって表されます。
 
  文の中にあるときの名詞類は、つねに何らかの格と、(それ自身が主語の場合を除き)再帰の形をとっています。それぞれの語尾の種類と形、接続方法はあとのステップでひとつひとつ学習していきますので、ここでは、モンゴル語の文の中にある名詞類が、格と再帰という2つの点で何らかの形を取っているということだけを覚えておいてください。
 
語幹
格語尾
(述語との関係)
再帰語尾
(主語との関係)
語基
派生接辞
語幹の交代
 
  モンゴル語では、名詞類が格語尾をとるときに語幹の形が変わることがあります。たとえば、次の例では、語幹の形が辞書に載っているものとは違う形になっています。
 
     хөдөөнөөс → 語幹 хөдөөн 「田舎」(辞書にある語幹 хөдөө) + 奪格語尾 -өөс 「~から」   :「田舎から」
     ууланд → 語幹 уулан 「山」(辞書にある語幹 уул) + 与位格語尾 -д 「~に」   :「山に」
     сангаас → 語幹 санг 「基金」(辞書にある語幹 сан) + 奪格語尾 -аас 「~から」   :「基金から」
     шуудангийн → 語幹 шууданг 「郵便局」(辞書にある語幹 шуудан) + 属格語尾 -ийн 「~の」   :「郵便局の」
 
  このように、特定の語尾を接続するときにだけ現れる別の形の語幹を交代語幹と呼びます。
  交代語幹には、хөдөөн やуулан のように末尾に н が出てくる Н交代語幹と、санг のように末尾に г が出てくる Г交代語幹とがあります。交代語幹は、記述によっては「かくれたН」・「不定のН」などと呼ばれることもありますが、このモジュールでは、隠れた子音(字)が出てくるだけではなく、語幹の全体が交代するという見方をとります。
 
  交代語幹は、古いモンゴル語の形の名残ですが、現代のモンゴル語では、ふつうの語幹ではなく交代語幹を使うことによって語の意味を区別したりする新たな用法が発達しています。どのような場合にどちらの交代語幹が現れるかはあとのステップで詳しく学習しますので、ここでは、一部の語には交代語幹という現象があるということだけを覚えておきましょう。