東京外国語大学言語モジュール

モダリティ(9) 働きかけ

働きかけの表現
 
  その文の内容を聞き手に理解・納得させようとしたり、その文が聞き手に対して向けられたものであることを強調するために用いられるのが働きかけの表現です。
 
  働きかけの表現は、文を終えることができる形の述語を持つ文にそのまま置かれる終助詞によって表されます。
  以下のような終助詞が働きかけの表現として用いられます。これらはいずれも述語動詞に対する母音調和は行いません。
 
終助詞
意味
日本語の類似形式
шүү
聞き手に対する認識喚起
~ですよ/~ますよ
шүү  дээ
聞き手に対する理解・納得要求
~じゃありませんか
 
  шүү дээ は、くだけたスタイルでは шдээ という縮約形になります。あくまでも口頭で話すときの縮約形ですが、小説のせりふなどの表記ではこの形がそのまま文字として書かれることもあります。
  шүү 及び шүү дээ は、前に来る述語の語尾に次のような制限があります。
 
語尾
不可
-на
 
-лаа
 
 
-жээ
 
-сан
 
-даг
 
 
  このほか、補助動詞のないコピュラ文のあとにもこれらの表現をそのまま置くことができます。
 
  聞き手に対する認識喚起とは、話し手が主張していることを聞き手が単に認識していない場合に、それを認識するよう働きかけるものです。
  これに対して、聞き手に対する理解・納得要求は、 話し手が主張していることとは別の認識を聞き手が持っている場合に、それをくつがえして話し手の認識に従うことを求めるという違いがあります。したがって、この場合は、文脈次第では聞き手に対する反論や非難のニュアンスを帯びやすくなりますので、使う相手によっては注意が必要です。
 
      Чи ерөөсөө хичээл хийдэггүй шүү.  君は全然勉強していませんよ。(『自分が勉強していない』という認識を単に持っていない聞き手に対して認識することを喚起)
      Чи ерөөсөө хичээл хийдэггүй шүү дээ.  君は全然勉強していないではありませんか。(『自分は勉強している』と認識している聞き手に対して、『(実は)勉強していない』という別の内容を理解・納得することを要求)
 
      Энэ миний ном шүү.  これは私の本ですよ。(『“私”の本である』という認識を単に持っていない聞き手に対して認識することを喚起)
      Энэ миний ном шүү дээ.  これは私の本じゃありませんか。(『“私”以外の誰かの本である』と認識している聞き手に対して、『(実は)“私”の本である』という別の内容を理解・納得することを要求)