時間的意味以外の形動詞形
このステップでは、形動詞形のうち、ほかの名詞を修飾するときに、時間的意味以外の文法的意味を付け加えるものを取り上げます。
時間的意味以外の文法的意味を付け加える形動詞形の語尾には次のものがあります。→【発音と正書法上の注意】
【語幹-маар】
【語幹-хуйц】
【語幹-ууштай】
これらの形動詞形はそれぞれ次のような意味を持ちます。
-маар は、「~したい…」というように、その動詞が表す動作・状態が実現することに対する希望・願望の意味を付け加えます。文脈によっては、「~すべき…」という価値判断や「~しそうな…」という可能性のニュアンスが出てくる場合もあります。
уншмаар ном 読みたい本
үерхмээр хүн 交際したい人
амьдарч үзмээр хот 住んでみたい街
この語尾は、時間的意味を表す形動詞形と同じように、-гүй を付けることで直接的な否定形を作ることができます。
уншмааргүй ном 読みたくない本
үерхмээргүй хүн 交際したくない人
амьдарч үзмээргүй хот 住んでみたくない街
-маар には -м (否定形は -мгүй)という短縮形があり、詩や決まり文句などの特殊な文体で用いられます。ただし、この場合、付け加わる意味は文脈によってさまざまとなります。
хайрлам эх орон 愛すべき祖国
хэл хугарам үг 舌をかみそうな単語
Монгол хүнд саламгүй унаа モンゴル人にとって離れられない乗り物(=馬)
-хуйц は、「~できる…」というように、その動作を行なうことが可能であるという意味を付け加えます。文脈によっては、「~できそうな…」という可能性を表すこともあります。この語尾はやや硬いスタイルで用いられます。
бахархахуйц төгсөгч 誇りとすることができる卒業生
миний чадахуйц ажил 私ができる仕事/私ができそうな仕事
-ууштай は、「~すべき…」・「~する価値がある」というように、その動作を行なうことが望ましいという価値判断を付け加えます。この語尾も、やや硬いスタイルのテクストで使われます。
заавал үзүүштэй хөтөлбөр 必ず見るべき番組
миний уншууштай ном 私が読むべき本
-хуйц と -ууштай は直接的な否定形を作ることができません。
これらの語尾で名詞節を作ることもできますが、それほど多く用いられません。
Олон дээлээс биедээ таармаараас нь авлаа. 多くのデールの中から(自分の)体に合いそうなのを買いました。
Аавын хутгануудаас даахуйцаар нь зүсэж үзлээ. 父のナイフのうち切れるの/切れそうなので切ってみました。
Би олон киноноос үзүүштэйгий нь үзнэ. 私は多くの映画の中から見るべきものを見ます。
この3つの形動詞形には、形動詞形でありながら、あたかも副動詞形のように述語動詞を修飾する用法もあります。
уншмаар санагд- 読みたいと感じられる
чадахуйц бол- できそうになる
анхаарууштай бодогд- 取り上げるべきと思われる
その他の語尾
時間的意味を表さない形動詞形語尾のうち、頻度が低く周辺的に使われるものを以下に掲げておきます。
語尾
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付け加える意味
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例
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-шгүй
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【V】することのない…
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олдошгүй боломж 手に入らないチャンス
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-лтай
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【V】すべき…
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үзэлтэй кино 観賞すべき映画
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-лтгүй
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【V】すべきでない…
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очилтгүй газар 行くべきではない場所
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中間的な語尾 -гч
モンゴル語には、上記のもの以外に、次のような形動詞形語尾があります。
【語幹-гч】
この語尾 は、行為者または道具を被修飾名詞とし、「~する人(生物)」・「~する道具」という名詞句を作ります。
хошуучлагч эгнээ トップを走る集団=先頭集団(マラソンなど)
шумбагч онгоц 潜行する船舶=潜水艦
ところが、現代語では多くの場合、被修飾名詞を省略し、この形動詞形そのものが「~する人(生物)」・「~する道具」という名詞として扱われます。この場合、名詞と同じようにすべての格語尾をとるほか、複数語尾 -д を接続することさえできます。その意味では、動詞から名詞を作る派生接辞に限りなく近付いていると見なすこともできますが、上の例のように、名詞を修飾する機能を依然として保持しているほか、補語をとるという動詞としての性質も放棄してはいないので注意が必要です。
сурагч 学ぶ人=義務教育の児童・生徒
чанга яригч 大声で話すための道具(補語:大声で)=拡声器
кино найруулагч 映画を編纂する人(補語:映画を)=映画監督
DVD тоглуулагч DVDを再生する道具(補語:DVDを)=DVDプレイヤー
名詞としての意識が強い場合、本来は対格をとっていたはずの補語が類推によって属格になることがありますが、依然として対格のまま使われるのが一般的な語もあるなどの揺れが見られます。これは、この語尾自体がまさに変化の過渡期にあるための現象と考えられます。
дэлгүүрийг эрхэл- 商店を運営する
→ дэлгүүрийн эрхлэгч 商店「の」運営する人=商店のマネージャ
үйл хэргийг залгамжил- 事業を継承する
→ үйл хэргийг залгамжлагч 事業を継承する人
тоглолтыг үз- 公演を見る
→ тоглолтыг үзэгч 公演を見る人=観客
~ тоглолтын үзэгч 公演「の」見る人=観客
【発音と正書法上の注意】
● 語尾 -хуйц が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
子音字で終わる場合は、それら語尾の直前に必ず短母音字を挟みます。
語幹 унш- 「読む」+-хуйц → уншихуйц
語幹 ид- 「食べる」+-хуйц → идэхуйц
ь で終わる場合は、語幹末の ь を и に変えます。
語幹 урь- 「招く」+-хуйц → урихуйц
語幹 зохь- 「合う」+-хуйц → зохихуйц
● 語尾 -ууштай が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
短母音字で終わる語幹の場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
語幹 сана- 「思う」: а脱落+-ууштай → санууштай
語幹 дага- 「従う」 : а脱落+-ууштай → дагууштай
я・ё で終わっている語幹の場合は、それらを残したうえで、-ууштай の形を -уштай とします
語幹 хая- 「捨てる」: +-уштай → хаяуштай
語幹 оё- 「縫う」 : +-уштай → оёуштай
長母音または二重母音で終わる語幹の場合は、子音 g がつなぎとして現れますので、綴りの上でもこれを表記します。
語幹 уу- 「飲む」: г挿入+-ууштай → уугууштай
語幹 ороо- 「包む」 : г挿入+-ууштай → ороогууштай
ь で終わる語幹の場合は、-ууштай を接続したときにできる綴り ьууштай の ьу の部分を母音字 и に変えて иуштай にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иу という二重母音になるわけではありません。
語幹 тавь- 「置く」 +-ууштай → тавьууштай → тавиуштай
語幹 соль- 「換える」+-ууштай → сольууштай → солиуштай
なお、語尾 -ууштай は母音で始まる語尾ですから、子音字で終わる語幹にこれを接続するときには、正書法一般のいわゆる脱落母音の規則とその例外にも十分注意してください。