東京外国語大学言語モジュール

再帰語尾と再帰代名詞

再帰の範疇
 
  モンゴル語の名詞類は、格の形や後置詞によって表される述語との関係以外に、その名詞類が「主語と関係がある」または「主語と関係がない」のどちらであるかを文の中で必ず表現しなければなりません。これを再帰の範疇と呼びます。
再帰語尾の形
 
  再帰の範疇は、その名詞類に再帰語尾を接続することによって「主語と関係がある」ことを、何も接続しないことによって「主語と関係がない」ことを示します。つまり、これまでのステップで見てきたすべての文は、再帰語尾を持たない、すなわち「主語と関係がない」例をわざと選んでいたというわけです。
 
  再帰語尾は次のとおりです(例では区切りがわかりやすいようにハイフンを挟んでいますが、実際の表記では不要です)。→【発音と正書法上の注意】
 
      【語幹属格以外の格 +-аа
      ах-ыг-аа, ах-аас-аа, ах-аар-аа, ах-тай-гаа
 
      【語幹:属格 -хаа 
      ах-ын-хаа

 

 このように、属格のあとかその他の格のあとかによって形が少し異なりますので注意してください。

 

 全体でひとつの意味を表す複合語の場合は、複合語全体のあとに再帰語尾が付く場合もあります。

 
      оюутныхаа байранд  =  оюутны байрандаа
      жолооныхоо үнэмлэхийг  =  жолооны үнэмлэхээ
 
 
  対格語尾のあとに再帰語尾が置かれる場合、対格語尾の部分が省略されることがあります。この現象は、とくに無生物を表す名詞類の場合に顕著に現れます。
 
      нутг  аа  語幹「故郷」(無生物)(対格語尾 –ийг が省略)
      ном  оо  語幹「本」(無生物)(対格語尾 –ыг が省略)
      ээжийгээ  語幹「お母さん」(生物)
      найзыгаа  語幹「友人」(生物)
再帰の範疇の意味
 
  再帰語尾の接続によって表される「主語に関係がある」状態とは、その名詞類が主語の所有・管理するものであったり、主語との間に何らかのつながりがあったりすることを指します。あくまでも文の主語との間の関係であり、文の話し手とのつながりではないことに注意してください。
  再帰は、主語以外の成分と主語との関係を示すための形式ですから、その名詞類自身が文の主語であるときはまったく無関係となります。
 
      Би түүнийг багшаасаа асуув.  私はそれを(自分につながりのある)先生に質問した。
      Чи хүүтэйгээ явж байна уу?  君は(自分の)息子と一緒に来ていますか?
 
  このうち、上の例は「先生」が主語にとって何らかのつながりがあることを表しています。また、下の例では、「息子」が家族として主語に所属していることを示しています。
  一方、次の文では、再帰語尾をとった名詞は主語が所有するものでも主語に所属するものでもありませんが、「主語が管理して処理することができるもの」という意味で再帰語尾が使われている例です。
 
      Одоо цонхоо хаах уу?  もう(自分が管理・処理できる)窓を閉めますか?
 
  文の中に格語尾をとった形が複数ある場合、すべてが主語に関係あれば再帰語尾を繰り返し使うことも可能です。
 
      Чи гэрээсээ машинаа гаргав уу?  君は(自分の)家から(自分の)車を出しましたか?(ただし、машинのあとの対格語尾 –ыг は省略されている状態)
 
  再帰語尾は代名詞にも接続することができます。
 
      Би чамайгаа үгүйлж байна.  私は(自分の)君を恋しく思っています。
 
 
  日本語には再帰の意味を表す直接の形がありませんので、煩雑を避けるため、これ以降のステップでは、説明上とくに必要がある場合を除いて、「(自分の)」などの表記は行なわないことにします。
再帰代名詞
 
  モンゴル語には、再帰代名詞と呼ばれる特殊な代名詞があります。
 
 
  再帰代名詞の形は次のとおりです。
 
単数
複数
өөр
өөрсөд
 
  再帰代名詞は、文の中では名詞と同じようにさまざまな格語尾をとりますが、このとき再帰語尾を伴なうことによって「主語と同じもの」、すなわち「自分」という意味を持ちます。
 
  「自分」という意味で使われる再帰代名詞が属格をとるとき、再帰語尾の意味がこの代名詞によってより明確に表されますので、修飾される名詞のほうに再帰語尾はなくてもかまいません。また、このときは、上で見た対格語尾の省略は行なわれません。
 
      Бат өөрийнхөө гэрийг цэвэрлэж байна.  バトは自分の部屋を掃除しています。(名詞の対格語尾は省略せず+再帰語尾なし)
      Бат гэрээ цэвэрлэж байна.  同(対格語尾を省略+再帰語尾)
      Бат өөрийнхөө гэрээ цэвэрлэж байна.  同(両方に再帰語尾)
 
  再帰代名詞の語幹(=主格形)にそのまま再帰語尾が接続した形は、「自分自身で」・「自力で」という意味で副詞的に使われます。これは、あくまでも本来の主語(省略されている場合もあります)と並立するものであることに注意してください。
 
      Би Монгол хэлийг өөрөө эзэмшив.  私はモンゴル語を自力でマスターした。
 
  この形は、初対面の相手などで2人称の代名詞のうちどちらを使うべきかわからない場合に、中立的な意味で用いることができます。関西方言の2人称代名詞「自分」と同じような用法です。
 
      Өөрөө хаанахын оюутан бэ?  どちらの学生さんですか?
【発音と正書法上の注意】
 
  再帰語尾 -аа が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
 
  и 以外の短母音字で終わる場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
 
     語幹 хутга 「ナイフ」 : а脱落+対格語尾省略-аа хутгаа  
     語幹 цана 「スキー」: а脱落+対格語尾省略-аа цанаа
 
  и で終わる場合は、и を残したうえで、-аа の形を -а とします。
 
     語幹 тамхи 「煙草」: 対格語尾省略+ тамхиа
 
  яёе で終わっている場合は、それらを残したうえで、-аа の形を -а とします
 
     語幹 бие 「体」 : 対格語尾省略 биеэ
 
  長母音または二重母音で終わる場合は、子音 g がつなぎとして現れますので、綴りの上でもこれを表記します。
 
     語幹 гэр лүү 「家+方向格語尾」: г挿入-ээ гэр лүүгээ
     語幹 ахтай 「兄+共同格語尾」 : г挿入-аа ахтайгаа
 
  ь で終わる場合は、-аа を接続したときにできる綴り ьаа の ьа の部分を母音字 и に変えて иа にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иа という二重母音になるわけではありません。
 
     語幹 амь 「命」: 対格語尾省略-аа амьаа амиа
 
  なお、再帰語尾 -аа は母音で始まる語尾ですから、子音字で終わる語幹にこれを接続するときには、正書法一般のいわゆる脱落母音の規則とその例外にも十分注意してください。