東京外国語大学言語モジュール

方向格

方向格の形
 
  モンゴル語には方向格と呼ばれる格があり、述語動詞に対する関係を表します。
 
  方向格語尾には次の2パターンがあります。→【発音と正書法上の注意】
 
      【語幹】 руу
      【語幹】 луу
 
  語尾 луу は、語幹末尾の子音字が р のときに使われます。
 
     語幹 хот 「街」 :+руу → хот руу  
     語幹 гэр 「家」:+лүү → гэр лүү
 
  方向格語尾は他の格語尾とは違い、語幹とは離して表記します。これは、元々格語尾ではなかった語が次第に語彙的な意味を失って文法的機能だけを果たすようになった(そのような現象を文法化と呼びます)ことによるもので、記述によっては格語尾のグループに入れない考え方もあります。
方向格の意味と機能
 
  方向格をとった名詞類は、述語に対する次のような関係を表示し、述語の動詞の意味によって補語成分や状況語成分になります。ここでは、格語尾をとる名詞類を【N】で表します。
 
【名詞類+方向格語尾】
意味役割
例  (他の補語の部分は省略)
空間的な方向
 【N】の方向へ
Москва руу  нис-
гэр лүү  харь-
モスクワ飛ぶ
帰る
抽象的な方向
 【N】に向けて
 【N】のほうへ
найз руу  утасд-
эрх баригч руу  урва-
友人電話する
与党のほうへ寝返る
 
代名詞の方向格形
 
  これまでに学習した指示代名詞・人称代名詞の多くは、方向格語尾を接続するときに語幹の形が変わります。
  語幹が交代しないものを含め、これまでに学んだ代名詞の方向格形は次のとおりです。
 
語幹=主格形
方向格のときの
交代語幹
方向格形
энэ
үүн
үүн рүү
同じ
энэ рүү
энэн
энэн рүү
тэр
түүн
түүн рүү
同じ
тэр лүү
тэрэн
тэрэн лүү
эдгээр
同じ
эдгээр лүү
тэдгээр
同じ
тэдгээр лүү
би
над
над руу
бид
бидэн
бидэн рүү
чи
чам
чам руу
та
тан
тан руу
эд
эдэн
эдэн рүү
тэд
тэдэн
тэдэн рүү
~ нар
同じ
~ нар луу
аль
使われない
ямар
使われない
хэд
使われない
хичнээн
使われない
юу
同じ
юу руу
хэн
同じ
хэн рүү
 
  энэ と тэр のもっとも下段の形は、ほかの格の形からの類推によるもので、主として人称代名詞としての用法のときに使われます。
方向格語尾の省略
 
  与位格のステップでも見たように、モンゴル語には、日本語の「行く」に相当する移動の動詞として яв- と оч- のふたつがあります。これらは、оч- が目的地までの到達に主眼を置くのに対し、яв- は、出発して現在移動の過程にあるという点に主な焦点があるという違いがありました。このことから、 яв- は、空間的帰着点を表す与位格ではなく、ここで学習した方向格とともに用いられるのがふつうです。
 
      Та Москва руу хэзээ явах вэ?  あなたはいつモスクワに行きますか?
      Та Москвад хэзээ явах вэ?  (×)
 
  この場合、目的地を表す名詞が「場所」に関係のある語彙的意味を持つ場合、方向格語尾は省略されることがあります。そのような例としては、与位格の場合と同じく、газар 「場所」・аймаг 「県」・сум 「郡」・хот 「市」・хөдөө 「いなか」などが挙げられます。
 
      Та хэзээ хөдөө явах вэ?  あなたはいついなかに行きますか?