東京外国語大学言語モジュール

奪格の形

 

  モンゴル語には奪格と呼ばれる格があり、述語動詞に対するさまざまな関係を表します。

 

  奪格語尾は次のとおりです。→【発音と正書法上の注意】

 

      交代語幹（Н／Г）を持つものは語幹が交代したうえで；

      【語幹-аас】

 

      語幹 Монгол 「モンゴル」 ： ＋оос → Монголоос

      語幹 хүн 「人間」 ： ＋ээс → хүнээс

      語幹 өдөр 「日」 ： ＋өөс → өдрөөс

      Н交代語幹 усан 「水」 ： ＋аас → уснаас     

      Г交代語幹 шууданг 「郵便局」 ： ＋аас → шуудангаас

奪格の意味と機能

 

  奪格をとった名詞類は、述語に対する次のような関係を表示し、述語の動詞の意味によって補語成分や状況語成分になります。ここでは、格語尾をとる名詞類を【Ｎ】で表します。

 

【名詞類＋奪格語尾】
意味役割		例  （他の補語の部分は省略）
空間的起点	【Ｎ】という場所から	Монголоос  ир- өрөөнөөс  гар-	モンゴルから来る 部屋から出る
時間的起点	【Ｎ】というときから	тэр өдрөөс  эхэл- өнөөдрөөс  боль-	その日から始まる 今日からやめる
抽象的起点	【Ｎ】という事物から  【Ｎ】という人から	зовлонгоос  холд- цэцгээс  ав- найзаас  зээл-	困難から遠ざかる 花から取る（蜜など） 友人から借りる
目的物の 一部分	【Ｎ】の一部を	махнаас  ав- цайнаас  уу-	肉を買う お茶を飲む
原因・理由	【Ｎ】のために	салхинаас  үүс- архинаас  балар-	風のために生じる 酒のために失敗する
動作主	【Ｎ】が	яамнаас  зарла-	省が公表する

 

  全体の一部分や原因・理由を表す意味役割は、日本語話者にはなかなか発想しにくいものですが、モンゴル語ではよく使われます。とくに、目的物の一部分を表す意味役割は、目的物の全体を対象とする対格・不定格と使い分けられますので注意が必要です。

 

      Тэр буузыг идэв.  あのボーズを食べた。（全部を食べた場合）

      Тэр буузнаас идэв.  あのボーズを食べた。（一部を食べた場合）

 

  動作主を表す用法は、団体や組織、複数の人間集団などの場合によく使われます。