東京外国語大学言語モジュール

補語のいろいろ

 カードで紹介した例(1)(2)に加え、いろいろな補語の例(3)(4)をあげておきます。
(1)ទៅស្រុកជប៉ុន។
(行く+日本=日本に行く。)
[タウ・スロック・チャポン tə̀w srok capon]
(2)នឹកផ្ទះ។
(恋しい+家=家が恋しい。)
[ヌック・プテアハ nɯk pʰtɛ̀əh]
(3)វាយខ្លា។
(殴る+虎=虎を(棒で)殴る。)
[ヴィアイ・クラー viˑəi kʰlaː]
(4)វាយដំបង។
(殴る+棒=(虎を)棒で殴る。)
[ヴィアイ・ドンボーン viˑəi dɔmbɔːŋ]
 
 例(3)(4)で見るように、同じ「殴る」という述語に対して、「虎を」と「棒で」という2種類の補語が考えられます。
 カンボジア語は日本語と同じく、言う必要がないことは言いませんので、どの道具で殴るのかを言う必要がなければ例(3)の言い方になりますし、何を殴るのか言う必要がなければ例(4)の言い方になります。
 
 もちろん、「虎を棒で殴る」と言いたい場合には、例(5)のような言い方もできます。
 「虎」も「棒」も単独で現れる場合には、同じように補語になるわけですが、同時に現れる場合には、文の中での役割がはっきりするように、より述語との関係が強い語(ここでは「虎」)が述語の直後につき、他の語は述語との関係を示す前置詞(ここでは「で」)をともなって、補語の後ろに現れます。
 述語との距離が近ければ近いほど、述語との関係が強いのだと考えてください。
 
 「棒で」にあたるような補語、つまり、述語との関係が強くない補語を、前置詞なしで使うことができるのは、「虎を」にあたるような補語、つまり述語との関係が強い補語が現れないときだけです。もちろん、例(6)のように、前置詞をつけて使ってもかまいません。
(5)វាយខ្លាដោយដំបង។
(殴る+虎+で+棒=虎を棒で殴る。)
[ヴィアイ・クラー・ダオイ・ドンボーン viˑəi kʰlaː daoi dɔmbɔːŋ]
(6)វាយដោយដំបង។
(殴る+で+棒=(虎を)棒で殴る。)
[ヴィアイ・ダオイ・ドンボーン viˑəi daoi dɔmbɔːŋ]
 
 カンボジア語には、1文に動詞は1つだけ、という規則はありません。そのため、例(5)のような、補語の後ろにまた前置詞句をつける言い方よりも、実際にはもっと別の言い方をよく使います。
 これについては、もっと後のステップ(複数動詞文)で学習します。