東京外国語大学言語モジュール

Step46 : 態:主語の意味役割による限定

上記の定義から,まず主語が規定され,動作主と被動作主とが明示されないと,能動受動の対立がはっきりしないことになります。
専門的に言うと,能動受動の対立は,対格型の言語についてはっきりと現れます。対格型言語とは,他動詞文の主語(動作主,Agent の A で表します)と,自動詞文の主語(Subject の S で表します)とが,構文上同じ標識を持ち,その標識が,他動詞文の目的語 (Patient の P で表します)とは違っているタイプの言語です。(A=S≠P)
例:「花子が太郎をしかる」という他動詞構文では,Aが「が」で,P が「を」でマークされています。
「太郎が泣く」という自動詞構文では,Sが「が」でマークされています。したがって,日本語は「A=S≠P」の対格型言語です。
対格型言語に対し,「A≠S=P」のようなマークを持つ言語を「能格型言語」と言います。
ちょっと想像しづらいかもしれませんが,日本語で言うと,「太郎に英語がわかる」,「太郎が歩く」のようなマークの仕方(この場合,他動詞「わかる」の目的語と自動詞「歩く」の主語が,ともに「が」でマークされている)を考えてみるといいかと思います。もちろん,「わかる」は典型的な他動詞とは言えませんが。