東京外国語大学言語モジュール

受身の補助語幹t-

(1) アラビア語は、日本語ほど多くは受身表現を使いません。受身表現は、主語をとくに言わないために使われます。
اسمي بيتكتب كده.‏
( ぼくの名前はこうやって書くんだ。 )
[ esm-i byetketeb keda. ]
この例では、だれが書くかという、主語はだれでもいいわけです。受身は主に、このような場合に使います。

(2) 受身を表現するには、2つの方法があります。
 ・動詞の語幹に補助語幹 t- をつける
 ・3人称複数の形を使う。‎(Step 70)参照。

(3) 補助語幹 t-
動詞の語幹に補助語幹 t- を付けます。

 baa9 売る → etbaa9 売れる
 qaal 言う → etqaal 言われる
 katab 書く → etkatab 書かれる

※補助母音: 語頭にt-を付けると、最初に子音が2つ連続するので、これを避けるために語頭にさらに母音 e を足します。このような補助母音は、前に母音が来くると必要なくなります。
we tbaa9 「そして売れた」。

(4) 補助語幹t-の現在形
補助語幹t-のついた動詞の現在形は、もとの動詞の型によって異なります。元の動詞の現在形と、t-の現在形は異なります。

元の動詞 過去形 現在形
(a) CvCvC et-CaCaC ye-t-CeCeC
(b) CvCv et-CaCa ye-t-CeCi
(c) CaCC et-CaCC ye-t-CaCC
(d) CaaC et-CaaC ye-t-CaaC


元の動詞 過去形 現在形 (元の動詞の現在形)
katab et-katab ye-t-keteb (ye-kteb)
nesi et-nasa ye-t-nesi (ye-nsa)
9add et-9add ye-t-9add (ye-9udd)
qaal et-qaal ye-t-qaal (ye-quul)

 

(5) 分詞
 ・(d) 型に補助語幹t-を付けた動詞の分詞は、現在形のyをmに取り替えることで作られます。
  「言われる」現在形 ye-t-qaal → 分詞 me-t-qaal
  「売れる」現在形 ye-t-baa9 → 分詞 me-t-baa9
 ・(a) (b) (c) 型に補助語幹t-を付けた動詞の分詞は、maCCuuC型にすることで作られます。

(a)「書く」katab → 「書かれた」maktuub
(b)「忘れる」nesi → 「忘れられた」mansy
(c)「数える」9add →「数えられた」ma9duud

(6) 補助語幹n-
いくつかの動詞は、補助語幹がt-でなく、n-のものがあります。これは、受身形というよりは、一つの単語と考えられます。また、その多くは t- とも言います。
 en-baSaT 満足する
 en-kasar 壊れる = et-kasar
 en-baa9 売れる = et-baa9