東京外国語大学言語モジュール

名詞の複数形

   「性」とちがい名詞の文法的カテゴリーとしての「数」は,指示対象が一つか,二つ以上であるかという意味上の区別に対応します.単数形が基本形で,複数形は対象が二つ以上であることが明らかな場合に用いられます.単語によっては集合名詞的に単数形が用いられたり(例:gente人々,私たち),複数形しか用いられないような単語も存在します(例:núpcias婚姻,suspensóriosズボン吊り).
 
◆ 単数形から複数形の作り方(以下の規則は形容詞についても共通です)
 
ⅰ)母音で終わる単語では -sを加える.: ano → anos  dia → dias  gente → gentes
 
ⅱ)語末が -r, -z のものでは -esを加える
      professor → professores  lugar場所 → lugares  paz平和 → pazes
 
ⅲ)-mで終わる単語では -mを -nsに変える.:
      homem → homens  jovem → jovens  viagem f. 旅行 → viagens
 
ⅳ)-ãoで終わる単語は -ão → -ões  -ão → -ãos  -ão → -ãesのいずれかの変化をする.
   ・ canção f. 歌 → canções  limão m. レモン → limões  leão m. ライオン → leões
      condição f. 条件 → condições  adoração憧れ →adorações  visão →visões
   ・ chão m. 床,地面 → chãos  mão f. 手 → mãos  irmão m. 兄弟 → irmãos
      órgão m. 臓器 → órgãos
   ・ alemão m. ドイツ人 → alemães  cão m. 犬 → cães  pão m. パン → pães
     capitão m. 隊長,大尉 → capitães
   (-ão→-õesが最も多いので,-ão→-ãos, -ão→-ãesの変化をする単語を覚えておくとよい.)
 
ⅴ)-ilで終わる語
     アクセントのない -il → -eis: fóssil m. 化石 → fósseis  réptil m. 爬虫類 → répteis
                                                   (difícil難しい → difíceis  fácil 易しい → fáceis)
     アクセントのある -il →  -is: barril m. 樽 → barris  funil m. 漏斗 → funis
                                                  (civil市民の → civis  gentil親切な → gentis)
        (ブラジルではreptil → reptisが普通で,ポルトガルではréptilしか用いられない.)
☠ ilのアクセントの有無の見分け方:lで終わる語では,通常その前の母音にアクセントがある時,アクセント記号は使われません.従って,単語の他の位置にアクセント記号がなければ,lの前にアクセントがあります.
 
ⅵ)-al, -el, -ol, -ulで終わる語では-lを-isにする.ただし,-el, -olの-e-と-o-にアクセントがある時は-éis, -óisになる.:
      jornal m. 新聞 → jornais  capital首都f. 資本m. → capitais
      nível m. レベル → níveis  papel m. 紙 → papéis
      álcool m. アルコール → álcoois  lençol m. シーツ → lençóis
      azul青い → azuis  paul m. 湿地帯 → pauis
 ☺ lで閉じられる音節の母音は開きが大きくなる傾向があります.
 
ⅶ)-sで終わる語では,sの前の母音にアクセントがある時は -esを加え,アクセントがない場合は単複同形となる.前者の場合,必要に応じてアクセント記号を取る.:
      país m. 国 → países  japonês m. 日本人 → japoneses
      ananás m. パイン → ananases  lápis m. 鉛筆 → lápis  alferes m. 少尉 → alferes
      atlas m. 地図 → atlas
◆ 綴り字に現れない語形変化(メタフォニー):
   語尾が -oで終わり,単数形の強勢母音がo [o] である男性名詞の一部では,複数形で語幹の強勢母音がo [] に交替します.
corpo ['koɾpu] (ブ['koxpu]) → corpos ['kɔɾpuʃ] (ブ['kɔxpus])

   この変化は綴り字に現れないため通常,初級文法では扱われない.辞書によっては,単語の発音表記の中で示されていることがある.

★このような変化をする語:corpo体, corvoからす, fogo火, jogoゲーム, osso骨, ovo卵, porco豚, porto港, povo民衆, sogro舅, olho目, poço井戸, bolsoポケット

★同じような条件にありながら,複数形で母音の交替の起きないもの:gosto好み, lobo狼, lodo泥, rosto顔, esposo夫

   この現象はラテン語からポルトガル語への歴史的変化と関係しています.実用的には知らなくても特に支障はありません.単数形の母音が広いo [] やeの場合はこのような変化は起きません.