接頭辞 meN- は、その機能の一つとして他動詞(あるいは他動詞的なプロセスを表す語)を形成します。
他動詞は、その動作に関わる《動作主》と《動作対象》の2つを文法的に必要とします。文中においてこれら2つの要素との関係を明示するために、他動詞は3つの形が使い分けられます。ここでは、他動詞の3つの形を便宜上《meN- 形》《ゼロ形》《di- 形》と呼んでおきます。
【1】meN- 形:他動詞を形成する語幹に接頭辞 meN- を伴った形
【2】ゼロ形:他動詞を形成する語幹のみで成り立つ形( meN- や di- を伴わない)
【3】di- 形:他動詞を形成する語幹に接頭辞 di- を伴った形
文中での他動詞の3つの形の使い分けは、以下の2点が基準となります。
[1] 対応する主語が《動作主》か《動作対象》か
[2] 主語が《動作対象》の場合に、その動作を誰が行なうか(つまり何が《動作主》となるか)
他動詞の3つの形は、文中に現れる要素の関係を示すものであり、基本的に意味が異なるということはありません。辞書での記載などの場合には meN- 形を用いるのが通例です。ゼロ形やdi- 形を辞書で調べる際には、同じ意味を持つ meN- 形を探すことになります。
※ 基語の意味が「――」となっているものは、基語単独では通常用いられないことを表します。
基語 tulis 「――」
meN- 形 menulis
ゼロ形 tulis 「~を書く」
di- 形 ditulis
(他動詞語幹) tulis
基語 isi 「中身,内容」
meN- 形 mengisi
ゼロ形 isi 「~を満たす」
di- 形 diisi
(他動詞語幹) isi
※ 他動詞の語幹を形成する接尾辞 -kan や -i 、接頭辞 per- を伴う派生語も、3つの形を使い分けます。
基語 tinggal 「残る,とどまる,住む」
meN- 形 meninggalkan
ゼロ形 tinggalkan 「~を残す,離れる」
di- 形 ditinggalkan
(他動詞語幹) tinggalkan
基語 kunjung 「――」
meN- 形 mengunjungi 「~を訪れる」
ゼロ形 kunjungi
di- 形 dikunjungi
(他動詞語幹) kunjungi
基語 besar 「大きい」
meN- 形 memperbesar 「~を拡大する」
ゼロ形 perbesar
di- 形 diperbesar
(他動詞語幹) perbesar
基語 senjata 「武器」
meN- 形 mempersenjatai 「~を武装させる」
ゼロ形 persenjatai
di- 形 dipersenjatai
(他動詞語幹) persenjatai
基語 juang 「――」
meN- 形 memperjuangkan 「~を目指して闘う」
ゼロ形 perjuangkan
di- 形 diperjuangkan
(他動詞語幹) perjuangkan
※ 接頭辞 meN- は、語幹のはじめの音に応じて鼻音変化を伴いますが、ゼロ形や di- 形では鼻音変化が起こらないことにも注意が必要です。