東京外国語大学言語モジュール

Step7 : 分節機能

ことばの第4の機能は,「現実を記号によって「分節」(articulate) すること」です。
ことばは無限の多様性を持つ外的・内的現象を切り取って認識するための道具です。無限の多様性を表現するとはいっても,個人の認識・表現能力は有限のものと考えられます。例えば個人の使用語彙は有限で,記憶力も限られています。
従って,ことばを用いても,無限の対象を無限に表現することはできません。「単語」や語順という限られた枠の範囲内で,外的世界を分節し,自己の「現実」とするのです。同じ「犬」,「机」といった名称で呼ばれるものであっても,そのことばの指し示す対象としてのイヌ,ツクエには,まったく同じものは二つとありません。昨日の私と,今日の私でさえ,まったく同じワタシではないことは,十年前の自分の写真を見れば明らかでしょう。この意味で,ことばは本質的に多義であるともいえます。
また,ことばの共同体が切り取る言語世界は,共同体の文化と環境の違いを反映して,それぞれ異なったものとなることは,興味深い事実です。
ことばの分節機能は,ヒトの認識機能の基盤の一つとして,大変重要なものではありますが,文法よりも語彙に関わる部分が大きいので,ここではこれ以上の検討をしないことにします。