東京外国語大学言語モジュール

Step7 : 名詞と動詞

言語によって,品詞の分類基準はさまざまです。いわゆる活用形を持つ言語では,「名詞はこれこれの変化(曲用)を持ち,動詞は名詞とは別の,これこれという変化(活用)を持つ」というように,単語の形の活用表(パラダイム)の違いから品詞を定義しますが,これでは,たとえば中国語のように変化形を持たない言語の名詞,動詞を定義できません。これとは別に,特定の単語と一緒に用いられるかどうかを基準として品詞を定義することも行なわれますが,両方の基準を組み合わせて品詞を定義することが一般的です。
品詞分類の問題について,アメリカの言語学者エドワード・サピア (1884-1939年) は,次のように述べています。
「名詞と動詞の区別がまったくできないような言語は,一つも存在しない(もっとも,特定の場合には,この区別の性質がわかりにくいものもある)。その他の品詞については,事情が異なる。他の品詞で言語の生命にとって絶対に必要とされるものは,一つとして存在しない。」(サピア『言語』[安藤貞雄訳],岩波文庫版205頁,1998年)
一方,アメリカの言語学者ブルームフィールド(1887-1949年)はさらに懐疑的で,次のように述べているのです。
「言語についての唯一の有効な総括は,帰納的総括のみである。普遍的であると我々の考える特徴が,手に入ったすぐお隣の言語に欠けているかも知れない。ある種の特徴,たとえば動詞状≪verb-like≫ の単語と名詞状≪noun-like≫の単語とが別々の品詞にわかれているといった特徴は,多くの言語に共通するものではあるが,これを欠いている言語もある。」(ブルームフィールド『言語』[三宅鴻・日野資純訳],22頁,大修館書店, 1962年)