東京外国語大学言語モジュール

ことばと言語研究

近代言語学は,言語の形式とその配列に関する規則の総体を研究する学問として成立しました。例えば,音韻論は,具体的な音の背後にある抽象的な音素と,その配列の規則性に関する学問です。形態論は,語を構成する単位としての「形態素」と,その配列を記述する学問です。統語論は単語とその配列に関する学問だと,大ざっぱに言うことができます。
つまり,近代言語学は,抽象的な形式と,形式どうしの配列を記述する学問として発展してきたのです。一方,形式とその具体的現れである音(「オン」:言語学では人間が言語による伝達に用いる音声に言及するとき,「音」という字を「オン」と呼んでいます)との関係を研究するのを「音声学」と呼んで,音韻論とは区別し,言語形式と,その形式が指し示す,言語外の世界との関係の研究を「意味論」と呼んでいます。
近代言語学は,スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールの構造主義言語学に始まります。ヨーロッパ構造主義言語学は,マテジウスらのプラハ言語学サークルの機能・構造言語学,イェルムスレウらのコペンハーゲン学派,フランスのマルティネの機能主義的言語学,ファースのロンドン学派から発展したハリデーの機能・体系言語学などによって代表されます。一方,アメリカではボアズ,サピアによるアメリカの土着言語の研究に続いて,ブルームフィールドに始まるアメリカ構造主義言語学が発展し,1950年代にはチョムスキーによる生成文法理論が生まれました。
これらの多様な言語理論とその発展を,あえて一言でその流れをまとめると,言語学はより具体的な音(オン)の背後にある,抽象形式としての音韻論の研究から出発して,その成果をもとに,形態論,さらには統語論へと発展してきたと言うことができます。ヨーロッパにおいてはことばの体系性と機能との関係をどう考えるかが,さまざまな学派を特徴づけています。一方,特に20世紀のアメリカの言語学においては,形式と意味とは別個に研究可能である,あるいは別個に研究すべきであるという暗黙の前提が,一貫して存在しています。
以下の文献を参照してください。
Matthews 1993: Grammatical theories in the United States.