東京外国語大学言語モジュール

知覚と知識・理解の表現

「~を見る,~が見える,~を聞く,~が聞こえる」といった知覚に関する表現は,次の2つの点で,さまざまな言語で特別な扱いをされています。
1. 知覚は,意志的な働きかけというよりは,外部の刺激に対する反応です。このため,典型的な他動詞構文とは異なる文法表示を知覚動詞に与える言語があります。日本語の「~が見える,聞こえる」も,その一例で,対格型言語であるにもかかわらず,能格型言語のような助詞が使われています。
2.知覚に関する表現は,「誰かが~する」のを見る,というように,見られる被動作者に関する出来事を対象にすることがあります。この意味で,使役表現と共通点を持っています。
知識を得る,理解する,という重要な精神活動には,知覚に似た受動的な面と,思考するという積極的活動の面とがあります。対格型言語である日本語でも「~に~がわかる」のように,能格型言語のような助詞を用います。
「知っている」という場合,「人に面識がある,顔見知りである」「行ったことのある場所を覚えている」,あるいは出来事を「知識として知っている」,さらには水泳や運転のように「技能を習得している」など,その内容はさまざまですが,それぞれの意味に対して別の単語を使い分けるものもあります。技能として習得している場合,「能力・可能の表現」と関連します。