東京外国語大学言語モジュール

013: 格変化 (1) ― 定冠詞と名詞の格変化 ―

 男性名詞単数形,中性名詞単数形,女性名詞単数形,それに各性共通の複数形の4つについて格が4つあるので,16通りを区別することになりますが,ところどころで同じ形が使われているので,定冠詞の形としてはder,des,dem,den,das,die の6つしかありません。変化表を少しじっくり見てみましょう。変化表のどことどこが同じかということは,ほとんどの変化表に共通なので,初めにきっちり押さえておくと後々便利です。
 まず,変化表を縦に見ていくと,男性単数以外は1格と4格が同形だということがわかりますね。女性単数はさらに2格と3格も同形です。変化表を横に見ていくと,男性単数と中性単数の2格が des -[e]s で同形,3格が dem - で同形です。des -[e]s も dem - もそれぞれこの2箇所だけなので,名詞の性を知らなくても des -[e]s ならば2格,dem - ならば3格ということが識別できます。
 特に注意が必要なのは定冠詞が der のときです。結び付いているのが男性名詞ならば1格,女性名詞ならば2格か3格,複数形ならば2格というように異なるので,冠詞の形だけでは格は識別できません。また den も男性単数4格と複数3格に用いられているので,名詞をしっかり見分ける/聞き分けることが大事です。変化表を覚えこむこと自体が目標ではありませんが,表が頭に入っているととにかく便利です。上から下へでも左から右へでも何度でも音読してみてください。
複数形は3格で名詞に -n という語尾が付きます。これは作文の時に忘れがちなので,注意してください。ただし,[E]N型 と S型の複数形には3格でも -n をつけません。また der Wagen (車) の複数形 die Wagen のように,複数1格が -n で終わっている場合も,もちろん -n を重ねるようなことはしません。 男性単数と中性単数の2格で名詞に付ける語尾は -s または -es のどちらでも良いという場合が多いのですが,中には次のように -s か -es の一方しか付けることができない名詞もあります。 -en,-el,-er などで終わる名詞には -s を付ける。
Wagen (車) ⇒ des Wagens,Onkel (おじ) ⇒ des Onkels,Vater (父) ⇒ des Vaters -s,-ß,-zt などで終わる名詞には -es を付ける。
Haus (家) ⇒ des Hauses,Fuß (足) ⇒ des Fußes,Arzt (医者) ⇒ des Arztes 男性名詞の中には,Student (大学生),Mensch (人間),Junge (少年)など,単数1格以外のすべてに -en または -n という語尾が付くものがあります。
das Zimmer des Studenten/×des Students その大学生の部屋(単数2格)
Er hilft dem Studenten/×dem Student. 彼はその大学生を手伝う。(単数3格)
Die Studenten haben viel Zeit. 大学生には時間がたくさんある。(複数1格)
このタイプの名詞は男性弱変化名詞と言います。