東京外国語大学言語モジュール

012: 4つの格

 ドイツ語の「1格,2格,3格,4格」と日本語の「が,の,に,を」の対応関係は,特に「A男が(⇒1格)B子に(⇒3格)Cを(⇒4格)あげる/送る/伝える」など,多くのケースに当てはまりますが,あくまでもドイツ語の格の働きを理解するための最初の手がかりに過ぎないと考えてください。「1格=…が」,「2格=…の」,「3格=…に」,「4格=…を」という対応関係が常に成り立つというわけではありません。次の例文を見てみましょう。
 
(5)
Die Tochter hilft dem Vater. 娘は父を手伝う。
 
(6)
Die Mutter fragt den Vater. 母は父に尋ねる。
 ポイントは動詞です。(5) の hilft (手伝う) ― hilft は helfen の変化形ですが,これについてはステップ16で勉強します ― の目的語「手伝う相手」が3格になることや,(6) のfragt (尋ねる) の目的語「尋ねる相手」が4格になることは,それぞれの動詞の特性として定まっているのです。要するに,ドイツ語はドイツ語の理屈で,日本語は日本語の理屈で文が組み立てられているということです。とりあえず「1格≒が,2格≒の,3格≒に,4格≒を」を手がかりとしながらも,あまりその対応関係に縛られすぎずにドイツ語に接するように心がけましょう。
 なお,(2) の der Beruf des Vaters で「父の職業」という意味になるように,名詞を修飾するのが2格の主な用法です。日本語の「…の」と違い,後ろから前の名詞に掛かります。
 用語について補足しておきます。日本のドイツ語教育では一般に「1格,2格,3格,4格」と言っていますが,言語学では「主格,属格,与格,対格」と言うのが普通です。なお,ドイツ語では Nominativ (主格=1格),Genitiv (属格=2格),Dativ (与格=3格),Akkusativ (対格=4格)と言います。