東京外国語大学言語モジュール

対格の用法:動詞の目的語,会話表現

 主格は動作主や主題を含む「主語」や述語となる名詞がとり,属格は前にある前置詞や名詞に従属する名詞がとるというようにその用法は限られていますが,対格をとる名詞は文中で様々な役割を果たします。
 「主語」や述語でなく,前置詞や先行名詞にも従属しない名詞(およびそれを修飾する形容詞)は対格をとると考えて差し支えないでしょう。
 
1. 動詞の目的語
 他動詞の目的語となる名詞は対格語尾 -a,-an をとります。
أتمنّى لك مستقبلاً باهراً.‏
(貴男のために輝かしい未来を祈るわ。)
[ʔa-tamannaa la-ka mustaqbal-an baahir-an]
【語句】 tamannaa (ya-tamannaa) 「望む,願う」  la- 「~に,~のため」
      mustaqbal 「未来」  baahir 「輝かしい」
(会話モジュール39「希望を述べる」)
أتمنّى لك السلامة في الذهاب والإياب.‏
((旅立つ人に)貴男のため行き帰りの安全を祈ります。)
[ʔa-tamannaa la-ka s-salaama(t-a) fi ð-ðahaab(-i) wa-l-ʔiyaab(-i)]
【語句】 salaama 「安全」  ðahaab wa-ʔiyaab 「往復」
(会話モジュール10「予定を言う」)
 
2. 副詞的表現
 対格語尾 -a,-an は名詞・形容詞から副詞的な表現を作るのに使われます。
جيّد
jayyid
「よい」
جيّداً
jayyid-an
「よく」
معذرة. لا أسمعك جيّداً.‏
(すみません。よく聞こえないんですが。)
[maʕðira(t-un). laa ʔa-smaʕ-u-ka jayyid-an]
【語句】 samiʕ-a (ya-smaʕ) 「聞く」
(会話モジュール5「謝る」)
 以下のような会話でよく使われる表現にも不定の対格語尾 -an がついています。
شكراً ... عفواً.‏
(ありがとう。…どういたしまして。)
[ʃukr-an … ʕafw-an]
【語句】 ʃukr 「感謝」  ʕafw 「許し」 
(会話モジュール11「程度についてたずねる」)
مرحباً. ... أهلاً وسهلاً.‏
(こんにちは。…いらっしゃい。)
[marħab-an … ʔahl-an wa-sahl-an]
【語句】 marħab 「歓迎,歓待」  ʔahl 「家族」  sahl 「易しい」
(会話モジュール5「謝る」,12「時間についてたずねる」)
 
3. <laa+名詞-a>
 対格語尾 -a を使った<laa+名詞-a>は「(名詞)は一切ない」という意味で,以下のような定型表現でよく使われます。
شكراً جزيلاً لك ... لا شكرَ على واجب.‏
(どうもありがとう。…義務に感謝はなしさ。)
[ʃukr-an jaziil-an la-ka … laa ʃukr-a ʕalaa waajib(-in)]
【語句】 ʃukr 「感謝」  waajib 「義務」
(会話モジュール2「感謝する」,16「場所についてたずねる」)
 
 <laa+名詞-a>の文型はイスラームの信仰告白や礼拝を呼びかけるアザーンでおなじみの以下の一節にも使われています。
لا إلهَ إلّا الله.‏
laa ʔilaah-a ʔilla l-laah(-u)
アッラー以外に神はなし。
【語句】 ʔilaah 「神」  ʔillaa ~ 「~以外」