1. 名詞・形容詞の格変化
アラビア語には「主格」「属格」「対格」という三つの格があり,これを名詞や形容詞の語尾で表わします。
名詞 Sabaaħ 「朝」の格変化を見てみましょう。
Sabaaħ 「朝」
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定
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不定
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主格
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صباحُ
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Sabaaħ-u
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صباحٌ
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Sabaaħ-un
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属格
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صباحِ
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Sabaaħ-i
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صباحٍ
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Sabaaħ-in
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対格
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صباحَ
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Sabaaħ-a
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صباحاً
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Sabaaħ-an
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* 青破線部は辞書形
主格は -u,属格は -i,対格は -a で表わされるのが基本です。
「定」の格語尾は定冠詞 al- がついた場合や接尾代名詞や属格名詞が後続する場合に使われます。「不定」の格語尾には「タンウィーン(tanwiin)」と呼ばれる不定を表わす n がつきます。
なお,上の表の青破線で示したように,辞書などの見出し語として名詞や形容詞を提示する場合は主格・不定の形がよく使われます。
2. 格語尾の発音
格は,主語,述語,目的語など,文中における名詞(句)の役割を示すものです。Sabaaħ 「朝」の語尾に注目して,以下の例を見て,聴いて,読んでみましょう。
主格(定):Sabaaħ-u
صباح الخير.
(おはようございます。)
[Sabaaħ-u⁀l-xayr(-i)]
属格(不定):Sabaaħ-in
أستيقظ في الساعة السادسة كلّ صباح.
(私は毎朝6時に起きます。)
[ʔa-stayqiZ(-u) min fi s-saaʕa(t-i) s-saadisa(t-i) kull-a Sabaaħ(-in) ]
【語句】 istayqaZ-a (ya-stayqiZ) 「起きる」
対格(不定):Sabaaħ-an
انتهت الحفلة في الساعة الرابعة صباحاً.
(パーティーは朝4時に終わりました。)
[intah-at-i l-ħafla(t-u) fi s-saaʕa(t-i) r-raabiʕa(t-i)]
【語句】 intahaa (ya-ntahii) 「終わる」
属格 Sabaaħ-in の格語尾 -in は発音されていないのに気がつきましたか。また,xayr(-i) 「良いこと」,saaʕa(t-i) 「~時,時計」,hafla(t-u) 「パーティー」なども名詞ですが,格語尾は発音されていません。
3. 発音する格語尾
話し言葉として現代標準アラビア語を使用する場合,格語尾が発音されるのは男性名詞の不定対格 -an だけです。不定主格 -un,不定属格 -in は発音されません。
定の主格 -u,属格 -i,対格 -a も基本的に発音されませんが,Sabaħ-u l-xayr(-i) 「おはよう」の -u のように定冠詞 al- のついた語が後続する場合,そして kayfa ħaal-u-ki 「ご機嫌いかがですか」の -u のように接尾代名詞が後続した場合にのみ発音されます。
このモジュールでは,発音されない格語尾はローマ字転写の中で ( ) に入れて表わしています。
كيف حالكِ؟
((女性に)ご機嫌いかがですか。)
[kayfa ħaal-u-kI]
【語句】 ħaal 「状態」