概数詞と概数の表現
数のさまざまな表現のうち、おおよその数を表すのが概数の表現です。
モンゴル語の概数の表現は、概数詞と呼ばれる数詞の形、一部の後置詞及びその他の形式によって作られます。
概数詞による表現
モンゴル語には、概数を表す概数詞の形があります。
概数詞は、基数詞に次のような語尾を接続することによって表されます。→【発音と正書法上の注意】
【基数詞-аад】
概数詞はその意味上、一の位を持たない10の倍数から作られる場合がほとんどです。以下に、10の倍数で単語としての基数詞を持つものの例を掲げます。
なお、この項の内容はことばとしての表現法の説明であり、実際の表記では多くの場合、算用数字を使うなどした略記が行なわれます。→【発音と正書法上の注意】
数
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基数詞
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序数詞
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10
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арав
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арваад
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20
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хорь
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хориод
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30
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гуч
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гучаад
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40
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дөч
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дөчөөд
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50
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тавь
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тавиад
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60
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жар
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жараад
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70
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дал
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далаад
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80
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ная
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наяад
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90
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ер
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ерээд
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100
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зуу
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зуугаад
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1000
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мянга
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мянгаад
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100万
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сая
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саяад
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数のうち、単語としての基数詞を持たず、ほかの基数詞を組み合わせて表されるものは、組み合わせに含まれる基数詞のうちの最後のものだけを概数詞にすることによって、その数全体の概数詞を作ることができます。
гурван зуугаад 概数詞「300」
мянга зургаан зуугаад 概数詞「1600」
概数詞は、「約~」・「~くらい」というおおよその数を表します。基数詞と同じように、名詞的にも形容詞的にも使うことができますが、基数詞のようなН交代語幹への交代はなく、どちらも同じ形のまま用いられます。
ирсэн оюутны арваадтай 来訪した学生の約10人とともに
хориод хоног 約20日間
гучаад хүүхэд 約30人の子ども
мянга дөрвөн зуугаад төгрөг 約1400トゥグルグ
やや特殊な使い方として、名詞 он 「年」を概数詞で修飾することによって「~年代」を表す用法があります。
наяад оны мод 80年代の流行
ерээд оноос хойш 90年代以降
なお、この表現を使って「~年代に」という時点を示す場合は、名詞 үе 「とき・頃」をさらに後続させた次の形式にしたうえで、与位格や造格にするのが一般的です。
【概数詞】 оны үе
хориод оны үед 20年代に
тавиад оны үеэр 50年代のころにかけて
後置詞による表現
次の後置詞は、その意味役割を応用して概数を表すことができます。
後置詞
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意味役割
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例
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гаруй
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【N】あまり
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нэг жил гаруй амьдар- 1年あまり生活する
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【N】あまりの
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нэг жил гаруй хугацаа 1年あまりの期間
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шахам
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【N】近く
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нэг жил шахам амьдар- 1年近く生活する
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【N】近くの
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нэг жил шахам хугацаа 1年近くの期間
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орчим
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【N】ぐらい
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нэг жил орчим амьдар- 1年ぐらい生活する
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【N】ぐらいの
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нэг жил орчим хугацаа 1年ぐらいの期間
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ここで、概数の表現の観点からまとめなおすと次のようになります。概数詞の場合と同じように、常識的には10の倍数がこのような表現を作ります。
【基数詞】 гаруй (【名詞】)
【基数詞】 шахам (【名詞】)
【基数詞】 орчим (【名詞】)
これらの形は、名詞的・形容詞的に使う概数詞とは違い、あくまでも後置詞表現の一部であり、副詞的・形容詞的に使います。このとき、形容詞的に使う場合でも、基数詞の部分はН交代語幹にはなりませんので注意が必要です。
наян гаруй сурагч (×)
これらの形式は、後置詞としての使い分けに準じて次のように使い分けられます。
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гаруй
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【基数詞】あまり
【基数詞】あまりの
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基準点→
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орчим
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【基数詞】ぐらい
【基数詞】ぐらいの
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шахам
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【基数詞】近く
【基数詞】近くの
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жар гаруй мал 60頭あまりの家畜(60頭よりも少し多い)
жар орчим мал 60頭ぐらいの家畜(60頭前後)
жар шахам мал 60頭近くの家畜(60頭よりも少し少ない)
ただし、これらの違いは文脈によっては微妙な場合もあります。
その他の表現
以上のほかに、次のような形式によっても概数を表すことができます。
日本語の「二・三(にさん)」や「五・六(ごろく)」という表現と同じように、一桁の連続する整数を並べることによって、それらの数の付近の概数を表すことができます。
【基数詞(n)】 【基数詞(n+1)】
хоёр гурван оюутан 2~3人の学生
тав зургаан морь 5~6頭の乗用馬
なお、n が1の場合は、基数詞 нэг ではなく名詞 ганц 「単独」を使うことも少なくありません。
ганц хоёр хуудас 1~2ページ
~ нэг хоёр хуудас 同
この形式は、上の例のように整数 n 自身の付近の概数について述べるほかに、複合的な基数詞を作るときに単位となる зуу や мянга がいくつあるかを示す整数を n とすることもできます。この場合、全体の構成は次のようになります。
nが一桁の場合
【基数詞(n)】 【基数詞(n+1)】 【単位となる基数詞】
nが二桁以上の場合
【基数詞(n)】 【基数詞(n+10)】 【単位となる基数詞】
хоёр гурван зуун хонь 2~300頭の羊
хорь гучин мянган төгрөг 2~3万トゥグルグ
この表現で、連続する整数の部分を形容詞 олон 「多くの」に代えると、「数~」・「何~」という一般的な概数を表すことができます。このとき、本来は単語としての基数詞がある十の1~9倍の数についても、基数詞 арав を単位とする表現が可能です。
олон 【単位となる基数詞】
олон арван сурагч 数十人の生徒
олон зуун жилийн турш 数百年間
олон мянган тахиа 数千羽のニワトリ
疑問代名詞 хэд を繰り返した形は、具体的な数に一切言及しない概数を表します。これは、形容詞 олон と同じように、単位となる基数詞がいくつあるかを示す整数 n の代わりにも使うこともできます。
хэд хэдэн машин 数台の自動車
хэд хэдэн сая хүн амтай орон 数百万の人口を有する国
なお、 くだけたスタイルでは、хэд が繰り返されずに単独で使われることもあります。その場合、質問文なのか概数の表現なのかは文脈から判断するほかありません。
Найзаасаа хэдэн төгрөг аваад ирлээ. 友達から何トゥグルグか借りてきました。
Хэдэн мянган оюутан цугларчээ. 数千人の学生が集まりました。
【発音と正書法上の注意】
● 概数詞を作る語尾 -аад が接続するとき、語幹の種類によっては次の調整が必要です。
и 以外の短母音字で終わる語幹の場合は、その短母音字を脱落させたうえで接続します。
語幹 мянга 「1000」 : а脱落+-аад → мянгаад
я で終わっている語幹の場合は、それらを残したうえで、-аад の形を -ад とします
語幹 ная 「80」: +-ад → наяад
語幹 сая 「100万」 : +-ад → саяад
長母音で終わる語幹の場合は、子音 g がつなぎとして現れますので、綴りの上でもこれを表記します。
語幹 зуу 「100」: г挿入+-аад → зуугаад
ь で終わる語幹の場合は、-аад を接続したときにできる綴り ьаад の ьа の部分を母音字 и に変えて иад にします。この規定の目的は単に活字をひとつ節約することで、иа という二重母音になるわけではありません。
語幹 хорь 「20」: +-оод → хорьоод → хориод
なお、概数詞を作る語尾 -аад は母音で始まる語尾ですから、子音字で終わる語幹にこれを接続するときには、正書法一般のいわゆる脱落母音の規則とその例外にも十分注意してください。
● 算用数字を使う場合は、基数詞に格語尾が接続するときと同じように、概数詞の語尾の部分をハイフンでつなげて表記します。
【算用数字】-аад
60-аад = жараад 概数詞「60」