人称代名詞の体系
モンゴル語の人称代名詞は、少なくとも現代のことばでは次のような体系をなしています。
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1人称
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2人称
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単数
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би
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чи
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та
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複数
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бид
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つまり、2人称単数にふたつの語があることと、2人称の複数を指す語及び3人称を指す語が存在していないことがわかります。しかし、さまざまな情報をことばで実際に伝えるためには表の空白部分を埋める表現がなければなりません。そこで、このステップでは、実際に使われる言い方を人称ごとにまとめて見ていくことにします。
なお、このステップで挙げているのは語幹すなわち主格形ですが、代名詞が主格以外の格をとるときには多くの場合、語幹が交代することになります。実際の語幹の形はあとのステップでそれぞれ学習しますので、ここではまず主格形だけを覚えましょう。
1人称の代名詞表現
● 単数
1人称単数は、代名詞 би がありますので、これを使用します。
● 複数
1人称複数は、би の純粋な複数形である бид という代名詞がありますので、これを使用します。
そのほかに、бид のあとに、複数の人間を表す語尾 нар を付けた бид нар という形もよく使われますので一緒に覚えましょう。
なお、нар をここでは語尾としていますが、キリル文字の綴りでは離して書き、綴り上の母音調和もしないことになっていますので注意しましょう。
2人称の代名詞表現
● 単数
2人称単数には、ふたつの語があります。
чи は、(1)年下や子どもなど自分よりも目下の人と、(2)友人や夫婦など年齢に関係なく親しい関係にある人を指すのに用いられます。
та は、(1)年上の人一般や両親など目上の人と、(2)年下であっても改まった場面やとくに親しくない人を指すのに用いられます。
いずれも、使い分けはあくまでも社会的な関係によって行われ、年齢の上下で機械的に決まるものではありませんから注意しましょう。
● 複数
2人称複数を一語で指す人称代名詞は現代のことばにはなく、та のあとに複数の人間を表す語尾 нар を付けた та нар という言い方が用いられます。このとき、чи と та にあった区別はなくなります。
3人称の代名詞表現
モンゴル語には3人称の人称代名詞がなく、3人称を代名詞で呼びたいときには、前のステップで学んだ指示代名詞を流用します。
● 単数
3人称単数には、энэ と тэр というふたつの指示代名詞を流用します。
● 複数
3人称複数には、эд 及び тэд というふたつの指示代名詞と、それらのあとに複数の人間を表す語尾 нар を付けた эд нар 及び тэд нар という言い方が用いられます。ただし、эд は主格形ではほとんど用いられません。
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単数
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複数
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3人称
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энэ
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эд
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эд нар
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тэр
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тэд
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тэд нар
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単数・複数のいずれにも、э~ の系列と т~ の系列がありますが、両者の使い分けは基本的に指示代名詞の場合と同じです。なお、近くにいる人などを指す э~ の系列の場合、対応する日本語の訳語は「彼」・「彼女」ではなく「こちら」・「この人」などとする必要があります。