東京外国語大学言語モジュール

指示詞

■ 指示詞の種類 1. 近称
 
この
này
 
これ
cái này, đây
 
ここ
đây
 
2. 中称
 
その
ấy, đó
 
それ
đấy, đó, cái ấy,  cái đấy,  cái đó
 
そこ
đấy, đó
 
※ "đấy" と "đó" は共に「それ」ですが、 "đấy" は北部で、 "đó" は南部で、それぞれよく使われる言い方です。
3. 遠称
 
あの
kia
 
あれ
cái kia, kia
 
あそこ
kia
 
4. 疑問詞
 
どの
nào
 
cái gì, gì
 
どこ
đâu
※ 「その選択範囲から適切なものが分からない」時に使う「どれ」としてcái gì, gìを使うことはできません。
■ 指示の用法
 指示詞は名詞の後ろについて対象までの距離を表します。指示詞は常に名詞節の中で一番最後に置かれます。修飾語の多い複雑な名詞句も指示詞のついている場合はそこが区切れ目になります。

例)

3 con mèo trắng này
(この3匹の白い猫)
■ 代名詞の用法
 指示詞を、ものを意味する "cái" の後につけると「これ」「それ」といった無生物に対する代名詞になります。
また、"cái + [指示詞]" の形以外にも、もとから代名詞的な意味を持った "đây(これ)", "đấy", "đó(それ)", "gì(どれ)" のようなものもあります。
■ 共通の話題としての「あれ」
 例えば「あそこはいいところだったよ」と言う言い方をする場合、「あそこ」というのはその場から見ることはできませんが話し手と聞き手双方の記憶に共有されている、あるものやことを示します。この場合、日本語では「あの」と言う遠称を使いますが、ベトナム語では「その」に当たる中称を使います。つまり、
 
ấy, đó, đấy, cái ấy, cái đó, ...
といった指示詞が共通の話題を示すために使われます。
■ 限定の機能
 指示詞をつけることで、名詞の示す意味の範囲は限定されます。たとえば、ただ "sách" と言うだけなら漠然と一般的な「本」を表しているだけですが、"sách này" といえば他のものではなく、まさにこの本である、と意味が絞り込まれます。
■ 複数形
 さて、複数を示す語にはその場にあるもの全てを含む "các" とそのうちの一部のグループを指し示す "những" の二つがありますが、このうち指示詞の複数形にはもっぱら "những" が使われます。これは指示詞そのものが上に挙げたような限定の機能を持っているためです。指示詞をつけた時点で既に名詞の意味範囲が限定されている以上、限定的な複数形である "những" が使われるのです。
 
 
これら(近称)
những cái này
 
それら(中称)
những cái ấy, những cái đó, những cái đấy
 
あれら(遠称)
những cái kia
■ 「この」か「これら」か
 「ここにある本は誰のですか」と言うとき、可能性としては本が単数であることも複数であることもあり得ます。ベトナム語の指示詞は、このような単数と複数の境界のあいまいな表現です。これを厳密に「この(1冊の)本」と言いたいときはどうすればよいかと言うと、"quyển sách này" のように前に類別詞をつけます。
 
 
sách này
ここにある本(単数も複数も可)
 
quyển sách này
この本(単数)(←quyểnは本の類別詞)
 
(→類別詞については、[017 類別詞] を参照)
 
■ 指示詞の語気詞的用法

語気詞と言うのは話し手の感情を伝えるために使われる言葉のことです。一部の指示詞にはこの語気詞としての用法を持つものがあります。
 
 
kia kìa
「ほら」に当たる言葉。遠くにあるものや人に聞き手の注意を向けさせるときに使い、常に文の最初に置かれます。
 
 
đây と đấy
相手に対する呼びかけや注意を引きたいときに使われる用法です。この意味で使う時、"đây" と "đấy" は常に文章の一番最後に置かれます。自分や自分のすぐ近くにあるものには "đây" 、相手や少し離れたところにあるものに対しては "đấy" を使います。

例)

- Ai bấm chuông đấy?
(呼び鈴を押したのは誰?)
- Tôi đây.
(私です)
Anh đi đâu đấy?
(どこへ行くんですか)
Alô, Nam gọi đây ạ.
(もしもし、ナムです)