東京外国語大学言語モジュール

3.2.1.2. 「尼」はあっても「雨」はなし
 それぞれの言語には母音があります。その母音が2つのグループに分かれます。言語によっては、単語などの形態論的単位の中でグループが異なる母音が共存できない制約があり、これを母音調和とよびます。
 日本語では、「尼(ama)」という単語も「雨(ame)」という単語もあります。しかし、母音調和がある言語では、例えば母音のaとeが異なるグループに属する場合、「尼(ama)」はあっても「雨(ame)」はありません。単語の中で異なるグループの母音が共存できないという制約が、「雨(ame)」という語形を生み出さないのです。
 また、この母音調和は単語に続く接辞にも影響を及ぼします。日本語では、「頭(atama)」でも「目(me)」でも両方とも「が(ga)」という助詞をつけることができ、それぞれ「頭が(atama-ga)」、「目が(me-ga)」ということができます。しかし、母音調和がある言語では、これも許されません。「頭(atama)」には「が(ga)」をそのままつけることができますが、「目(me)」には「が(ga)」をつけることができず、「目(me)」の母音eにあわせて「げ(ge)」としなければなりません。まとめると、母音調和がない日本語では「頭が(atama-ga)」も「目が(me-ga)」も大丈夫ですが、母音調和がある言語では、それぞれ「頭が(atama-ga)」、「目げ(me-ge)」という形でしか実現しないということです。