東京外国語大学言語モジュール

Step1 : 再帰代名詞と再帰動詞

   再帰代名詞のついた動詞を再帰動詞と呼びます.言語によっては代名動詞という用語が用いられることもあるようです.現地のポルトガル語の文法では再帰動詞,代名動詞,いずれの呼び方も行なわれていますが,ここでは便宜的に慣例に習って再帰動詞と呼んでおくことにします. 
 ポルトガル語ではすべての動詞に再帰代名詞をつけることが出来ます.再帰代名詞は文法的には主語と同じものをさす代名詞ですが,再帰代名詞を含んだ再帰動詞全体がひとつの意味を持つと考えたほうがわかりやすいと思います.再帰動詞には次に述べるように様々な用法があります.
   ポルトガル語にはqueixar-se de...「不平を言う」, suicidar-se「自殺する」, atrever-se a...「敢えて...する」など再帰動詞としてしか使われないものもあります.
 再帰代名詞がつくことで全体の意味の変化を,1)本来の再帰,2)自動詞化,3)受け身や非人称的表現,4)相互的用法,5)その他(熟語的用法など)に分けて考えると,文脈に応じた意味がよくわかります.
   1) 本来の再帰
この用法の場合はa si mesmo(-a,-os,-mas)「自分自身に」をつけても意味が通ります.
João cortou-se com uma faca (a si mesmo).
(ジョアンはナイフで怪我した)
Perguntava-se a si mesma Teresa se aquela horrorosa situação seria um sonho.
(テレーザはその恐ろしい状況が夢でないだろうかと自問していた)
(cf.aquelaは話し手からの心理的距離を表現するので日本語の訳「その」とずれる)
   2) 自動詞化
Noris infiltra-se em uma organização criminosa para combatê-la.
(ノリスはそれを壊滅させるためある犯罪組織に潜入する)
Família de playboy milionário decide que ele deve se casar. Ele se apaixona, mas a moça não preenche os requisitos da família.
(億万長者のプレイボーイの一家が彼は結婚すべきだと決める.彼に恋人が出来るが,娘は一家の要求する基準を満たさない)
Cada vez me sinto menos capaz de prosseguir esta narrativa.
(ますます,私はこの話しを続けることが出来なくなっているように感じる)
Veste-se devagar, dirige-se depois, por outro caminho, para o café, a meia encosta, onde come duas sandes de presunto e um kiwi inteiro.
(ゆっくりと服を着,それから別の道を通って,坂の中ほどにあるカフェに行く,そこで生ハムのサンド二つとキューイフルーツを丸ごと食べる)
   3) 受け身
動詞が表す動作そのものに表現の中心がある.通常,動詞は目的語に一致する.
Fez-se novo silêncio.
(再び沈黙があった)
Aqui vendem-se melões.
(メロンあります(<ここではメロンが売られます))
Alugam-se quartos.
(部屋貸します(<部屋が貸されます))
Há bem uns três dias que se fala muito na mala encontrada com um corpo mutilado e queimado, sem cabeça.
(ここ3日ほど,損傷を受け,焼かれた首なし死体の入ったトランクが発見されたことについての話しでもちきりだ)
   4) 相互的用法
主語が複数で「お互いに~する」という意味になるときで,uns aos outros 「お互いに」という語句を補っても意味が通ります.
- Despedimo-nos aqui. Prefiro não conhecer a tua amiga.
(ここでお別れしましょう.君の友達とは知り合いにならないほうがよいので)
Elas odeiam-se uma à outra.
(彼女たちはお互いに憎みあっている)
Honramo-nos uns aos outros.
(お互いに名誉を称えあいましょう)
 (cf. Honramo-nos a nós mesmos. 自分自身の名誉を称えましょう)
   5) その他
O poeta Antero de Quental suicidou-se em 1891.
(詩人のアンテーロ・デ・ケンタルは1891年に自殺した.)
   自動詞に再帰代名詞がつくと完了の意味が加わることがあります.
Vou-me embora.
(私はおいとまします)
Ele se sentou.
(彼は座った)
動詞によっては再帰代名詞が省略されたと考えられる用例もあります.
Eu chamo José.
(私はジョゼといいます  (=Eu me chamo José.))
Ele mudou para São Paulo.
(彼はサンパウロに引っ越しました(=Ele se mudou para São Paulo.))
Eu formei em Medicina.
(私は医学部を出ました(=Eu me formei em Medicina.))