東京外国語大学言語モジュール

Step49 : 中動態

「中動態」は,あまり一般的ではない用語でしょう。
他動詞構文における意味役割を考えると,動作主に着目するのが能動態,被動作者に着目するのが受動態ですが,それ以外に次のような場合が考えられます。
1.動作主が行なう動作が,自分自身に及ぶ場合。
たとえば「彼は手を洗った」と言う場合,自分の手を洗うことを意味していますが,自分の手を洗う場合と,人の手を洗う場合とで,動詞に異なる形式を持つ言語があります。
2. 動作そのもの(とその結果)に着目し,動作主,被動作者ともに背景に置かれる場合。
例えば,英語の This book sells well. 「この本はよく売れる」と言う場合,被動作者である「本」が注目されていて,誰が買うのかは問題にされていません。(さらに言えば,同じ本が何度も売られるのではなくて,同じ本の異なるコピーの売れ行きがよい,という結果が問題になっています。)その意味で,この文は受け身文に似ていますが,動詞は能動態の場合と同じ形である点で,能動態の自動詞構文にも似ています。
中動態は,インドヨーロッパの古い言語では,解説の1に挙げたような動詞の示す行為が行為者自身に及ぶ場合に用いられていましたが,近代ヨーロッパ語では,中動態が失われ,再帰動詞,代名動詞によって同様の機能が果たされています。再帰動詞は,受け身に似た意味も持っています。