東京外国語大学言語モジュール

態:主語の意味役割による限定

同じ現象も,話し手がその現象のどの面に着目するかで,文の文法関係(構造)が異なる場合があります。
「花子が太郎をしかった」のように,人がある動作を行なって,その動作の結果が対象に及ぶ場合を考えましょう。この場合,「動作を行なう人(動作主)」と,「動作を受ける人(被動作者)」と,「動作そのもの」という,2つの関与者と,1つの動作があると考えられます。
上記の文のように,動作を行なう人に着目して,主語を「花子」にすると,典型的な他動詞文が得られます。
逆に,動作を受ける人に着目して,主語を「太郎」にすると,「太郎が花子にしかられた」というように,受動文(受け身文)が得られます。
このように,「主語」が文に認められる場合,その主語の意味役割によって述語の形態が変わる場合があります。
近代ヨーロッパ語の「能動態」と「受動態」は,よく知られた態(ボイス)の対立例です。
能動態,受動態の2つがある場合,能動態が「無標」で現れ,受動態は動詞に何らかの標識を持つなど,「有標」で現れます。